永遠


 『永遠』なんて言葉を信じるほど、子供ではないつもりだった。

 時の流れと人の想いは変わり行くもので、また無慈悲でもある、なんてこと。必要が無いほど知り過ぎている。
 切り裂かれた傷口をわざわざ開いて、そこに塗り込められるように。何度もその事実を思い知らされているというのに。

「馬鹿だね、あんたって」

 出会ったころから何度言われたかわからないほど、ことあるごとにもらった言葉。苦笑してそう漏らす彼に、軽く微笑んで誤魔化してばかりいた。

「本当に、馬鹿だ、俺は」

 今ごろ、じわじわとそれが体の隅々に染み渡る。
 あの渦中ではなく、今の、こんなにも平和で安らぎが得られるときにこそ、最も大きな打撃を与えられる言葉だと思う。もしかして彼は、これを見越してあのころ、そんな言葉ばかり言っていたのだろうか。

 ああ、本当に。
 なんて愚かなのだろう。

 自分で言うのもなんだけれど、俺は頭が悪い人間ではない。大抵のことはそつなくこなせるし、ある種の能力は常人以上のものを持っている。そして、一度犯した失敗は二度と繰り返さない。それくらいのことは出来る人間だと、信じて疑わなかった。

 まだ俺が幼く、何も知らなかった頃。
 世界はずっと(この場合は俺が生きている間中ずっとという意味)続くものだと思っていた。それこそ永遠に。『今』が続くものだと。
 多少の波風など、物ともしないつもりだった。現に父が北方へ飛ばされようが、一回りも年の離れていない女性が義母になる可能性がでてこようが、過剰な期待と筋違いな妬みを寄せられようが、それは崩れることは無かった。
 その程度ならば、いくらでも乗り越える自信があった。

 だけど、『波風』が自分の許容範囲を越えた瞬間。

 もう二度と、同じ失敗を繰り返してなるものかと。
 もう二度と、『永遠』など望んだりしてなるものかと。
 こんな想いはもうたくさんだと。

 そう思ったのに。

 あれほど強く想っていたのに。
 あれほど酷く傷ついたのに。

 何故か。

 風を感じるたびに、また同じように、祈り、願う。

 どうか。

 彼の風と『永遠』を共にできるように――




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2007.10.02
















散文その二。やっぱり恥ずかしい。
坊→ルク。