縞模様の風景


「シスカさん、何の用かな」

 夕方、日が暮れる前に村周辺を歩いて見回るのも自警団の仕事のうちの一つ。二手に分かれて北側と南側をそれぞれ歩き、合流したところで、マリカが「これからうちに寄ってくれる?」とそう言った。彼女の姉、シスカが何やら用事があるらしい。
 だらだらと歩いてマリカの家へ向かいながら、リウがぽつりとそう零す。

「さあな」

 あの人の考えていることはよく分からない、とそう言ったジェイルへ、「お姉ちゃんも、ジェイルには言われたくないと思う」とマリカが苦笑を浮かべた。

「渡したいものがあるって言ってたわよ」
「食い物か!」

 マリカの言葉にレッシンが目を輝かせて反応すると、「腹減ったなー」と隣でリウも笑う。両親のいないレッシン、母親が出稼ぎに出ているジェイル、親がいるのかすらも口にしないリウの三人は、揃ってマリカの家で食事を取ることが多かった。村長の家で育てられていたレッシンや村の人間であるジェイルならまだしも、そもそもが他所から来た身だから、と始めは遠慮していたリウだったが、「お母さんを泣かせないで頂戴」とシスカに脅され続け、今ではすっかりそのことに慣れてしまっている。自分の家で食事を取る回数など、今や週に二度あるかないかぐらいだ。

「ただいまっ! 異常なかったよ」

 明るい声で自宅へと入るマリカに、レッシンも「ただいまー。シス姉、腹減ったぁ」と続く。

「おお、ご苦労さん」

 それに返事をしたのは、既に食卓につき一杯始めてしまっていた村長、ラジムだった。

「あ、村長、ずりぃ! オレも腹減ってんのに!」
「家長の特権じゃな。ほれ、さっさと手を洗って来んか」

 その言葉に我先にと四人が手洗い場へと向かう。六人分の食事をテーブルに用意しながら、そんな彼らの様子をシスカが笑顔で見つめた。

「さ、みんな、お腹すいたでしょう? たくさん食べてね」

 いただきます、という合唱の後、一斉に伸びる箸。食べることと寝ることが何より好きだと豪語するレッシンはひとまず空腹を満たすことが先決らしく、ひたすら食べる。とにかく食べる。元より口数の少ないジェイルもそれに続いて無言のまま食事をし、彼らが満足するまでもっぱら食卓で会話を交わすのはラジム親子とリウの四人だった。村の畑の様子だとか、ここ最近の交易品の話だとか、いかにディルクの稽古が辛いだとか、そういったことを話している間に胃袋を満足させた二人が会話に入ってくる。全員があらかた食事を終え、ラジムが軽いつまみで晩酌を楽しみ始めたところでようやく、「そういえば」とシスカがいつものようにおっとりとした顔で手を叩いた。

「お母さんね、みんなに渡したいものがあったの」
「いや、だからお母さんじゃないって」

 妹であるはずのマリカ相手にさえそう言う彼女へ、いちいちツッコミを入れるのも馬鹿らしいが、とりあえず言っておかないとどこまでも暴走しそうなので小さくマリカがそう呟く。
 ちょっと待っててね、と立ち上がった彼女は自室へといったん戻ると、すぐに大量の布を抱えて現れた。

「帯をね、縫ったのよ」

 とさり、と床に置かれたそれは、縞模様の腰帯だった。お母さんのと色違いね、とシスカは自分が巻いている帯を指して笑う。

「はい、マリカちゃんはこの色ね。本当はピンクにしようかと思ったんだけど」

 黄色とオレンジの縞模様の帯を手渡され、マリカは「この色の方が好き」と嬉しそうだ。

「レッシンちゃんはこれ、ジェイルちゃんはこっちね」

 オレンジと青の鮮やかな縞模様の帯をレッシンに、こげ茶色と茶色のシックな色の組み合わせの帯をジェイルに手渡す。

「リウちゃんにも、はい」

 そうして最後に紫に近い濃い青と水色の帯をリウの前へ。

「……オレにもあんの?」

 きょとんとした顔で帯を受け取ろうとしないリウへ、「当たり前でしょう?」とシスカはそれを押し付けた。
 その何気なさが何よりも嬉しい。

「せっかくだから、みんな着てみてくれないかしら」

 にっこりと笑ってそう促され、逆らえるはずもない。四者四様、照れ笑いを浮かべながらそれぞれの腰に帯を巻く。

「うーん、お姉ちゃんみたいに巻いたら可愛いんだけど、動くのに邪魔になっちゃうかなぁ。ここは普通に後ろで……」

 背中で蝶々結びにしようとマリカが手を回すが、なかなか上手く結べないらしい。見かねたジェイルが手を出して、器用に可愛らしいリボン型を作り上げた。

「うわ、すごい可愛い。ありがと、ジェイル。……でも明日からどうやって結べばいいのよ、あたし」

 一人でこんなに綺麗に結べない、と悩むマリカに、「前で括って、くるって回す」とジェイルがアドバイスをした。彼自身は既に緩く腰を覆い、左端に余った布を垂らすようにして帯を巻いている。シンプルだが、ジェイルにはよく似合った巻き方だった。
 蝶々結び講座が始まったその隣では、帯で遊びながらレッシンが巻き方を悩んでいる。

「ジェイルと同じじゃつまんねーしなぁ」
「レッシン、レッシン。肩の方まで伸ばしてみたら? ほら、こーやって。動きにくくはねーだろ?」

 くるり、と肩のあたりまで布を伸ばし、端を背中へ向けて流す。もう片方の端は腰から垂らした状態にし、鏡の前に立ったレッシンは「おー」と満足そうに声を上げた。

「リウはどうする?」
「んー、オレは普通でいいかなー」

 言いながら腰にくるり、とひと巻きしたところで、「リウちゃんは」と声がかかった。振り返ると、にっこりと笑ったシスカ。

「腰がとっても細いから、それを活かすべきだとお母さんは思うのね」

 だから、と伸びてくる手から逃れる術もなく。

「ぎゃーっ! 待った待った! シスカさん、待って!」
「いつまでたっても『シス姉』って呼んでくれないし。リウちゃんってば冷たい」
「分かった、呼ぶ! 呼びます! 呼ぶからっ! って、ズボン脱がさないでぇっ!!」

 いやぁああ、と悲痛な叫びを上げるリウを見て、レッシンが声を上げて笑う。ようやく満足のいく結び方ができたのか、鏡の前でくるりと回って笑みを浮かべるマリカに、ラジムの晩酌用のつまみを横からつまんで食べているジェイル。

「ね、みんな並んで立ってみて? お母さんに見せて頂戴」

 いつの世、どの時代でも子は母親には勝てない。たとえ血のつながりがなかったとしても、無償の愛を与えてくれる存在に逆らえるはずがないのだ。

「うっし、じゃあ、明日からこれが自警団の服な! みんなちゃんと着てくること!」
「あんたが一番忘れそうなんだけど」
「マリカ、蝶々結びが縦になってる」
「うぅっ、シスカさんにパンツ見られた……」

 口々に騒ぎながら並んで立つ子供たちを見やり、ちびちびと手酌で酒を楽しみながらラジムが「ふむ、みんなよく似合っておる」と満足そうに言い、隣でシスカも嬉しそうに笑っていた。




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2009.01.19
















リウが村に来て一年くらいをイメージ。
リウはもともと一人で暮らしていて、レッシンもこの時には村長の家を出ている設定。
これはどうよと思って削った部分。ただ、一番書きたかった部分でもある。
ナチュラルに伏せ字あり。↓











「なんだよ、リウ、パンツくらいで。別にちん×見られたわけじゃねーんだろ?」
 その言葉に、「女の子の前でそういうこと言わないでよ!」とマリカは怒りながら、リウは顔を真っ赤にして半泣きの状態で、そしてジェイルは無言のまま、レッシンの頭をぽかりと殴った。








リウが一番乙女という罠。
つか、うちの団長は自然に下品な気がする。
風呂あがりも全裸で平気なタイプと見た。