着てみてくれんだろ?


 ひょんなところからひょんなものを手に入れた。
 今日はクリスマスイブ。
 となれば。


「…………いやいやいや、着ねーよ、オレは」

 ラグの上に広げた服へ視線を落とし、少年軍師はひとりそう呟く。四階角にある団長部屋、本来の部屋の持ち主はどこで遊んでいるのか、まだ戻ってきてはいない。隣に自分の部屋(とリウは思っている)があるにもかかわらず、こちらで寝起きをするようになって久しく、私物もこの部屋の方に集まっている。しかし今広げている服は断じてリウのものではなかった。つい先ほどにやにや笑ったモアナに「これぜひ軍師さんに! 団長さん、喜ぶと思うよー」と押し付けられはしたが、リウのものではないのだ。
 真っ赤な生地に白い飾りのついた服。この寒い季節に肩と腕を出したノースリーブのトップスは前面に大きな白いぽんぽんが三つ並んでいる。それとペアになっているのは裾にもこもことした綿があしらってある筒状の何か。摘まんで捲ってみても内部がふたつに分かれている様子はなく、ショートパンツでないのは確かだ。

「つかこれ、上着の丈、短くね?」

 スカート(としか言いようがないだろう)もかなり短いが、トップスもまた丈がなく、きっと臍が出てしまうデザインなのだろう。スクライブは線刻の見える服を纏うことが多かったが、さすがに雪の降るこの季節にそのような姿で歩き回るほど馬鹿ではない。ただでさえ体力がない方だと自覚している分、健康には気を付けているつもりだった。

「大体これ着て、レッシン、喜ぶか?」

 渡された時のモアナのセリフが脳裏に蘇る。確かにリウとは恋人という関係ではあるが、彼はこういったイロモノ系を好むようなタイプではなかったはずだ。

「大体オレが着てもさぁ……」

 際どい衣装ならばリウのような男ではなく、可愛らしい女の子が着たほうが良いに決まっている。きっとそうだ、そうに違いない。
 と、ひとり頷きながらも、やはり多少気にはなるわけで。

「うわ、やっぱスカートみじけー」

 立ち上がった己の身体に赤い布を当ててみて、膝のさらに上までの丈しかないことに驚いていたところで、がちゃり、とノブの回る音が耳に届いた。

「…………何やってんだ、リウ」
「ッ!?」

 明らかにスカートと分かる服を己の腰に当てている恋人の姿に、レッシンは素直に首を傾けた。その反応を前にぶわ、と顔を赤く染めたのは軍師の方。手にしていた服を放り投げ、ベッドの上に重なっていた敷布の中へ逃げ込んでしまう。「それ、リウのか?」と問われ、くぐもった声で「違ぇよっ」と返した。

「今見たこと、頼むから全部忘れてっ!」

 断じて違う、この服はリウのものではないし、着てみたいと思っていたわけでもない。女装趣味があるわけではないし、興味もない。そんな言い訳じみた言葉をシーツの中から紡いでいれば、「どうせモアナあたりに押し付けられたんだろ」とその通りな予測を放たれた。

「『団長さん喜ぶと思うよー』って渡された……」

 もそもそと顔だけを外へ出してそう言えば、摘み上げたミニスカサンタ服を眺めながら、「別に喜ぶってほどでもねぇけどなぁ、こういうの」とやはりリウが予想した通りの答えを口にする。分かっていながらも着た方が良いのだろうかと悩んでしまった自分がいたたまれなくて、だよねですよねそうですよネー、とレッシンから視線を反らせて呟いた。
 そうだろうと気づきながらも試そうとしてしまうあたり、どうにもレッシンが絡むとリウの脳は正常に働いてくれないようだ。惚れた弱みとでもいうのだろうか、あるいは恋は盲目、かもしれない。
 自分の馬鹿さ加減に呆れてシーツに包まったままはぁ、と大きく息を吐き出せば、「でも、」と言葉を続けるレッシンの声が耳に届いた。

「リウが着てんのは見てみたい」

 ばさり、とこちらに投げてよこされたそれが視界を覆う。真っ赤な布を見つめ、言葉の意味するところを理解し、それを払いのけて「はぁっ!?」と素っ頓狂な声で叫んだ。

「だ、って、お前好きじゃねーって……っ」

 思わず身体を起こしてそう言えば、「まあな」とレッシンはあっさりと肯定を返す。

「なんつの、女装とかコスプレ? とかが特別好きってわけじゃねぇだけで」
 リウのことは死ぬほど好きだからな。

 肩からシーツを羽織ったままぺたりとベッドの上に座り込んでいたリウは、先ほどの比ではないほどぼぼぼっ、と顔を真っ赤に染め上げた。どうしてこの男はそうもあっさり殺し文句を口にしてしまえるのだろう。本人それと気が付いていないあたりがまた憎らしい。
 ぱくぱくと口を開閉させ、結局言い返す言葉を見つけることができず唇を噛む。

「着てみてくれんだろ?」

 リウが払いのけたサンタ服を拾い上げ、にやり、と口元を歪めて口にされたその言葉に、逆らう術がどこかに落ちていないものだろうか。




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2011.12.24
















このあと団長は着衣エロを習得します。