ヒトと添い遂げる方法


 法的に保護者を必要としない所謂「大人」たちからすれば、双子の兄弟のじゃれ合いはただのままごとにしか見えないのかもしれない。世界から取り残されたふたりが寂しさを補いあうために身近な存在に手を伸ばしただけだ、と。
 それでもいい、たとえ傷の舐め合いでしかなくても絡まりあった指に安堵を覚え、たとえ真似事でしかなくても目に見える何かにこんなにも充足を覚えている。だから決して無駄なことではないのだろう、とそう思う。


 絶対に笑わないでね、と双子の弟はそう言った。

「自分でもおかしい、って分かってるんだ」

 分かっていながらも自分の行動を止めることができず、気が付いたら購入していたのだ、と。それが一ヶ月ほど前のこと。ちょうど、双子の兄弟が兄弟という一線を越えてしまった時期である。渡すか渡さないか散々悩み、ようやく決心がついた。というよりやはり、おかしいと思っていながらも自分の行動が止められなかったのだ、と雪男は早口でまくしたてる。
 一体全体何が言いたいのか分からず、首を傾げた燐にずい、と押し付けられたもの。掌に乗るサイズの小さな箱、俺に? と問えばそう、と弟は頷いて答えた。
 誕生日でもなんでもないのにどうしてプレゼントをもらえるのかが分からず、それでもとりあえず開けてみようと蓋を除けば、その下で輝いていたものは銀色のリングだった。

「シルバーの、安物だけどね」

 そう言いながらリングを摘まんだ雪男は、まるで宝物でも扱うかのように燐の手を取り、右の薬指へ嵌める。

「…………ごめん、やっぱり笑っていいよ」

 ていうか笑い飛ばして欲しい、と少女趣味すぎる自分の行動が居たたまれなくなってきたのか、頬を真っ赤に染めた雪男は視線を逸らして言った。そんな弟を前にその時の燐は、笑うどころか号泣してしまったのだけれど。
 泣きながらペアリングであることを白状させ、引き出しの奥にしまいこんであったもう一つの指輪を奪い取ってごつごつとした弟の指に嵌めこんだ。その結果、兄弟の右薬指には今、お揃いのシルバーリングが光っている。
 昼間は学校があり、夕方は塾に仕事。それぞれの規則の中で生きているため、日常的に指輪を嵌めることはできない。だから双子の兄弟は寮の部屋に戻り、プライベートな時間のときだけ互いを拘束することにした。それ以外のときは、同じシルバーのチェーンに通したリングを首から下げて、人目につかないように携帯している。
 揃いのリングの光る指を絡め合わせ、ベッドの上でころころとじゃれ合いながらどうして左ではないのか、と問えば、それは大人になってから、と弟は言う。
 今はまだふたりとも子供で、自分の力だけで生活することが難しい。だからせめて保護者というものが必要なくなったときに、改めて左の薬指に通すための指輪を贈りたいのだ、と。

「そのときはシルバーじゃなくて、ちゃんとしたもの、用意するからね」

 だから絶対にここ、あけといてね、と何にも拘束されていない左薬指の付け根にキスを落としながら雪男は言った。
 あまり世間を知らない燐には「ちゃんとしたもの」がどういうものなのかが分からない。けれど一つだけ分かることは、材質や金額などどうでもいいということ。唯一愛する伴侶から、これから先の時間を共に過ごすことを望む印を贈られる、薬指を拘束される、ただそれだけで燐の心は満たされる。

「お前も、あけとけよ?」

 お返し、とばかりに雪男の左手をとり、指の付け根に唇を押し付けた。今度はちゃんと燐も代金を払おう、とそう思う。お金の問題ではないのだけれど、やはりふたりの行く先を縛り付けるものなのだ、少額であっても燐だって負担しておきたい。

「当然。兄さんとお揃いのもの以外、つけるつもりないから」

 にっこりと笑顔で言い渡された言葉に、燐もまた満足げに笑みを浮かべて頷いた。


 同性な上に血の繋がった双子の兄弟、加え悪魔と人間。
 たとえ成人し、保護者というものが必要なくなり、雪男の言う「ちゃんとした」指輪を贈りあったとしても、他人からすればふたりのそれはただのままごとにしか見えないかもしれない。
 けれど、それでもいいのだ。
 たとえままごとであっても、弟とならば、一生やり通して生きていけるだろう。




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2013.07.16
















11月22日。

Pixivより。