擬声語(ぶすり) 近すぎた故にその近さに甘えていた。 近すぎた故に遠ざかる。 近すぎた故に近づくことを知らない。 結果開いた隙間は、もはや何かで埋めることなどできぬほどに広がりと深さを持ってしまっていた。 なあお前はいつ死ぬんだよ、という問いかけには、兄さんが死んだら死ぬよと返ってくる。答えになっていない、それは燐が聞きたいことではない。 早く死ねよ、と口にすれば、そっちこそ早く死ねよと返ってくる。これもまた答えになってない。そんな言葉が聞きたいわけではない。 じゃあいつ殺してくれるんだよ、と尋ねれば、兄さんが僕を殺してくれたらね、と返ってくる。まるで会話が成り立たない、そうじゃない、そんな話をしたいわけではないのに。 「こんなはずじゃ、なかったんだ」 埋めようもないほど隙間が広がれば広がるほど。 お互いを遠くに感じれば感じる程。 強くなる飢餓感。 「……僕もそう思ってる」 珍しく一致する意見。どちらも同じように思っていたはずなのだ。それなのにどうして、と今更悔いても仕方がない。 今現在、互いの手に武器を持ち、それをお互いの首筋につきつけている。 ただそれだけのこと。 目の前にいるはずなのに、どこにもいない。 それならば、今言葉を交わしているこの男は誰なのだろう。 血を分け、同じ羊水に肺まで浸かっていた双子の弟はどこに行ってしまったのだろう。 「兄さんが、見えないよ」 ほらこんなにも、同じ気持ちを抱いているというのに。とても近い場所に立っていたはずなのに。どうしてその気持ちを分け合うことができなかったのだろう。 残念だよ、と雪男は沈んだ声音で言った。 本当に、心底残念だ。 こんなことは望んでいなかったし、こうなるとまるで予想もしていなかった。それなのにどうして。 こんなはずじゃなかった、そう思う思考の端でそうだ、と思いついた。 終わりにしよう、と。 きっと雪男も同じように思ったのだろう。 何故なら燐と雪男は双子の兄弟だから。 近くて遠い場所で生きている、血を分けた兄弟なのだから。 近くにいたときには分からなかったけれど、遠ざかった今、同じことを考えることができていたのだとはっきりと感じ取れるだなんてなんて皮肉な状況。 そこに彼がいなければ、寂しくて生きていけない。 そこに彼がいるだけで、つらくて生きていけない。 もうどうしたらいいのかが分からない。 だから終わりにする。 じん、と痺れた脳の片隅でそう思う。目を開けても雪男の姿が見えない。こんな世界など燐にとってはゴミクズも同然なのだから。 カチャリ、と金属の鳴る音が耳に届いた。あの銃弾が燐の脳を飛び散らせるのと、炎を纏った刃が彼の喉を掻き切るのはどちらが速いだろう。 少しだけ考え愚問だったと思い直す。もちろん同時に決まっている。 結局、と雪男によく似た声が小さく呟いた。 「僕の兄さんは、僕のことをどう思ってくれてたのかな」 そう、突き詰めればとても単純な疑問。単純な欲求。それは俺も聞いときたかったな、と燐は返した、ような気がした。 そんなの決まってるでしょ、と雪男の声が言う。 俺だって答えは決まってる、と燐の声が返す。 刀を握る手に力を込めた、きっと相対する誰かも同じように武器を握る手に力が籠っただろう。 誰よりも近いところにあった存在、だからこそ逆に、姿も見えぬほどに遠ざかってしまった。片割れをどう思っているのか、だなんて、問われて返す言葉は決まっている。 「「殺したいほど、愛してる」」 放たれたそれは言の葉というよりももはや言の刃。 ぶすり、 双子の心臓に突き刺さる。 ブラウザバックでお戻りください。 2014.06.03
ただそれだけを伝えたかった。 Pixivより。 |