奥村雪男の考察


 クリスマスプレゼントなるものを、してみようと思う。

 誰を相手に、と問われたら、我が愛しの双子の兄に、である。いや、この場合はようやく両思いになれたかわいい恋人に、といったほうが正しいのかもしれない。双子の兄に対しては、毎年クリスマスの二日後に訪れる誕生日にプレゼントを渡している。双子であるためその日は雪男の誕生日でもあり、兄からも毎年プレゼントをもらっていた。常に金欠気味である燐からの贈り物は慎ましやかなものであったが(手作りのクッキーだとかケーキだとか)、それでも用意してくれるという気持ちが嬉しい。
 そんなプレゼント交換を誕生日にしているものだから、クリスマスにプレゼントをあげるということは今まで一切したことがなかった。養父たちにも、クリスマスと誕生日をまとめて祝われていたため、そもそもクリスマスにプレゼントをもらうという発想がないのである。
 もちろんサンタクロースという存在は知っていたし、周りのみなはクリスマスにプレゼントをもらっているのだ、ということも知っていた。サンタクロースの存在を信じていない大人たちの間でも、クリスマスにプレゼントを贈りあうことだってある。それは主に恋人間におけるやりとりで、それならばいろいろな問題をすっ飛ばして、晴れて恋人同士となれた自分たちがしてもいいではないか、と思い至った次第である。

 燐を驚かせたい、喜ばせたい、せっかく恋人同士になれたのだから、今までと違うことをしたい。
 そう思うが、さてはて、ではいったい何をプレゼントとして贈るべきか。
 二日後の誕生日プレゼントはすでに財布を用意してある。今使っているものがボロボロで替えどきだ、とぼやいていたため、じゃあ誕生日にプレゼントするよ、と事前に伝えてあった。色や形の希望を聞いたうえで選んだため、外れはないはずだ。今までも料理本や、鞄、ベルトなど、何が欲しいか確認することが多かった。雪男は何が入っているのか分からない、という驚きよりも、確実性を求めていたのだ。
 兄弟間であればそれで十分だったが、恋人となればやはりもう少しロマンを求めたい。サプライズというものに憧れる。そういう年頃なのだ、と思ってもらいたい。付き合いだして最初のクリスマスなのだ。
 そこで問題にぶち当たる。
 いったい何をプレゼントすればいいのか。

 ペアリング、はさすがにまだ早い。気持ちが重たい。ドン引かれること確実である。いつかは贈りたいものではあるけれども、もう少し先でいい。雪男には燐しかいないし、燐にも雪男しかいない。これからの人生ともに歩んでいくのだ、という気持ちをお互い確認しあって、ふたりでリングを探しにいくのもいいかもしれない。
 では指輪ではないそのほかのアクセサリ? ネックレス、ブレスレット、ピアスは開けていないから、イヤカフ。そもそもアクセサリをつけるタイプの兄ではなく、贈ったところで身につける機会もあまりないだろう。却下。
 服飾系の小物はどうだろうか。ベルト、マフラー、手袋。あるいは服そのもの、ジャケット、デニム、Tシャツ。好み、サイズがあるため、おいそれとは買いづらい。せっかく渡すのだから、タンスの肥やしにしてもらいたくはない。保留。

 もう少し実用的なもの、たとえばキッチン用品。何が必要なのか、料理をしない雪男にはさっぱり分からない。そもそもロマンチックさが欲しいのに、プレゼントの中身が鍋だとか、ミキサーだとかではまったくもって決まらない。却下。
 実用的繋がりで思いつくのは、商品券やギフト券。色気がない。却下。あるいは旅行券だとか。いや、旅行には雪男が連れて行くので、贈る必要がない。それも却下。
 そのほかの家電系。たとえば加湿器、タブレット、MP3プレイヤー。燐が欲しがっている気配がないため、喜んでもらえるか、使ってもらえるか微妙だ。保留。
 あるいは食品系。普段食べないような値の張る肉、魚。有名店のスイーツ。喜んでもらえるだろうし、食べ物の好みはなんとなく分かるため無駄になることもない。ただ、求める色気が少し不足する気がする。保留で。
 やはり、クリスマスプレゼントに恋人からもらって嬉しいものといえば、アクセサリや服飾小物系が一番だろうか。
 相手が女性であればその手を取るが、雪男が喜ばせたい相手は双子の兄である。燐を喜ばせるために何をしたらいいのか。

 それは考えるまでもない、雪男が甘えてやることだ。
 兄は生まれたときから兄であったようで、とにかく弟を甘やかすことが大好きだった。必要とされている自分を喜ぶのではなく、ただ本当に、甘えてくる弟がかわいくて仕方がないのだ。いや、その弟であるところの雪男がそう思っているわけではなく、これは年齢分双子の兄につきあってきた弟としての、経験に基づく判断である。
 小腹が空いたから何か作ってほしいな、と甘えれば、しょうがねぇなあ、と言いながらもいそいそとマンガ雑誌を閉じ、尻尾を揺らしながらキッチンに立つ。眠くて動くのが億劫だから着替えさせて、と甘えれば、昨日遅くまで仕事してるからだぞ、と小言を言いながらシャツや靴下を用意してくれる。髪の毛乾かして、と甘えれば、風邪引くぞ、と心配しながらドライヤを当ててくれる。どれもしぶしぶといった様子を見せつつ、それでも嬉しさを隠しきれない緩んだ顔で世話をしてくれるのだから、我が兄のことながら、弟を好きすぎて、若干引く。
 しかしだからといって、『プレゼントはわ・た・し♥』というのもどうだろう。さすがにそれは恥ずかしい。燐が喜びそうなことが分かるためなおさら嫌だ。そうなればきっと雪男は一日燐に甘やかされるだろう。下手をしたら箸を持つこともできないかもしれない。

 逆の立場、双子の兄ではなく、恋人からプレゼントをもらうとすれば何が一番嬉しいか、と考えたとき、燐が選んでくれたのなら何でも嬉しいが、正直なところやはり『プレゼントはわ・た・し♥』が一番かもしれない、と思ってしまう。そうなればもちろん、すみからすみまで、余さず美味しく頂くだろう。
 かわいいかわいい恋人は、少し照れ屋なところもあって、ベッドのうえではとても大人しい。いつもあれだけ騒いでいる彼が、雪男の腕のなかではびくびくと小動物のように震えているのだ。恥ずかしい、と啜り泣く兄に、恥ずかしいことは気持ちのいいことだ、と教え込んでいる最中である。もとより健康で健全な身体を持つ男として、気持ちのいいことが嫌いではない燐だ。雪男にはどれだけ甘えてもいいのだ、恥ずかしい姿を見せてもいいのだ、いやむしろ見せるべきなのだ、ということを理解してくれたときにはきっと、どこまでも奔放に、そして淫らに腰を振ってくれるようになるはずである。
 そんな恋人に『プレゼントはわ・た・し♥』だなんて言われた日には、今まで少しセーブしていた欲望を弾けさせてしまうかもしれない。恥ずかしいから嫌だ、と拒まれていたためあまり咥えたことのなかった燐のものを舐めしゃぶってのどで扱いて、何も出なくなるまで搾り取ってやりたい。最近ようやく少しだけ感じ始めるようになったらしい乳首を、真っ赤に染まるまで弄り倒してやりたい。いやらしい台詞をたくさん言わせて泣かせてやりたいし、なんなら燐にねだる言葉を言わせて、上に乗ってもらってもいい。
 恥ずかしい、と青い両目からぽろぽろと涙を零し、耳の先まで真っ赤に染めながら、ぎこちなく腰を振る様子を想像(あるいは妄想)したところで、下半身が反応しかけ慌てて首を横に振った。
 そんな兄(恋人)を美味しく頂くための小道具、も少しだけ、ちらっと、頭の中をよぎりはしたけれども(ミニスカサンタコスだとか、ハートのエプロンだとか)、それも一緒に振り払っておく。繰り返すが付き合いだして最初のクリスマス。雪男が求めているのはロマンチックさである。もちろんそれにエロが付随してくるというのならば、あえて拒むことはない。




 十二月二十四日、クリスマスイブ。そもそもプレゼントを渡すのはイブなのかクリスマス当日なのか、どちらが主流なのだろう、と思いながらもサンタクロースがやってくる日に合わせておくことにした。
 クリスマスプレゼント!? と慌てる燐へ、僕が贈りたかっただけだから、と笑顔で押しつけたものは、マフラー、手袋、イヤーマフという防寒具一式。無難すぎるものではあるが、長年求めていた双子の兄を手に入れ浮かれきってはいても奥村雪男、冒険はしない主義なのである。
 ついでに、自分は何も用意してない、としょげる燐を言いくるめて、思い描いていた妄想の一部を実現させておいた。これぞまさしく『プレゼントはわ・た・し♥』であり、プレゼント交換はきっちり行われていたわけである、当人である燐のあずかり知らないところで。




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2018.12.24
















(.□д□:)「大変美味しいプレゼントでした」