「カッコ悪いこと似合いますね」 (幻水2:坊ルク)




 ニルバーナ城ホール、石版前。部屋に戻って本を読む、と言うルックへ、泣いて縋りついている元天魁星セツナ。どうやらどこかへ出かけよう、と誘っているのを断れたらしい。

「ねー、そんなこといわないでさー、行こうよ、ルッくぅん」
「可愛く言わないでよ、気持ち悪い」

 ばっさりと切り捨てられてもセツナは諦めようとしない。抱きついた腕の力を緩めることなく、なおもルックを抱きしめた。

「離してよ」
「やだ! ルックが行くって言ってくれるまで離さない」
「いいから離せ」
「やーだーっ!」

 まるで駄々っ子である。言い合いが始まった当初から近くで見ていた現天魁星コクウは、はぁ、とため息をついた。あれが有名な英雄の今の姿であるなど、到底信じられない。

「セツナさんってカッコ悪いこと似合いますね」

 しかし、多少の皮肉を込めてそう言ってみたところ、にやりと笑みを浮かべて「それだけこいつに惚れてるってことだから」と返され、コクウは不覚にも格好良い、と思ってしまった。


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カッコ悪いことをカッコ良くやってのける坊さま。






「吼えないで下さい」 (幻水2:坊ルク)




「ルーッくん、あーそーぼー……って、あれ?」

 元天魁星、トランの英雄セツナが、隣国で起こっている解放戦争の連合軍本拠地をいつものように訪れたところ、風の魔術師が無愛想な顔で立っているはず場所にはぽつんと石版があるだけだった。

「なんだよ、ルッくん、いないじゃん」

 ちぇーっと子供のように唇を膨らませつつも、一応と思い石版へと近づく。
 約束の石版と呼ばれるそれには、星の宿命に彩られた人々の名が連なっている。一番上には現天魁星の名前。愛しの彼の名前は前回と同じように天間星のところに刻まれているだろう。
 考えながら歩み寄っていくと、石版になにやらメモのようなものが貼り付けられていることに気が付いた。誰だか知らないがタイセツな石版を伝言板代わりにして、ルックが知ったら怒るぞ、と思ったが、メモを見て気付く。

「コクウの字じゃん」

 学がないように見えるが、ああ見えてここの軍主の頭の出来は良い。彼がこうしてメモを貼り付けたということは、ルックの許可もおりているのだろう。というかむしろ二人して何かをたくらみ、セツナをはめようとしているとも考えられる。

『セツナさんへ』

 数枚つづりにされているらしいメモの一番上には案の定自分の名前。
 ペリ、と一枚めくると、『ルックと一緒に遠出してきます』と意外にまともな伝言があった。

『行き先は教えません』

 ペリッ。

『大事な用なので追いかけてこないでください』

 ペリッ。

『もしかしたらしばらくは帰れないかもしれません』

 ペリッ。

『その間はご自宅で大人しくしていてください』

 ペリッ。

『ただそれだと気の毒なので、代わりのものを用意しました』

 ペリッ。

『石版の裏のものはご自由にどうぞ』

 メモはこれで終わっていたが、とりあえず石版から引っぺがしてびりびりに破いてホールへ投げ捨てておく。こうでもしないと気がすまない。できればいろいろ無視してルックを追いかけたいところだが、それをすると本気で怒られそうだし裏に何が放置されているのかも気になった。
 どうせろくなものじゃないだろう。
 一つため息をついて棍を構えながら、セツナはそっと石版裏を覗いてみた。そして言葉を失う。

 そこには、セミロングのかつらを被って緑の法衣を着た状態で、猿轡を噛まされて身動きを封じられているシーナの姿。何とかして現状から脱しようと懸命にもがいているが、よほどうまく縛られているのだろう、縄が緩んでいる様子は一切見えなかった。

「せめて無修正のエロ本とか、そういうのを置いとけよっ!」

 明らかに彼もコクウとルックの被害者なのだが、すべてを無視して叫びと共にセツナはシーナを殴り飛ばした。全力で。持てる力のすべてを発揮して、殴り飛ばしておいた。
 かわいそうな被害者が吹っ飛んでいった方向を、ぜえぜえと肩で息をしながら睨みつけていると、不意にひらひらと一枚のメモが振ってくることに気が付いた。おそらくシーナに貼り付けられでもしていたのだろう。床に落ちたそれを拾い上げると、そこにはコクウではなくルックの文字。

『城内で吼えないで下さい』

 二人が帰ってきたら血祭りにあげることが、セツナの中で決定した瞬間だった。


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うちの坊さまとルックはたとえ好き合っていても喧嘩は全力でします。






「貴方が思っているほど幼くは無いんです」 (幻水4:シグ主)


 軍のリーダなんて面倒くさいことばかりで、得することなんてほとんどない。しかしそれでもリーダをやっていて良かったと思うのは、こうして広い個室を与えられたこと。この船に乗っていてサイハの顔を知らないものなどいないに等しい。だからどこへ行こうとも必ず誰かに見られているのだが、この室内だけはその目が届かない。

「だからここで何をしていてもおれの自由」

 ね、とサイハは目の前に呆然と立つ彼の手を引いた。そのまま壁際に置かれたベッドへと誘導する。

「サ、サイハ様……!」

 慌ててサイハを呼ぶ彼、シグルドはそれでも掴まれた腕を離そうとはしない。サイハは彼のそういう優しさが好きで、そういう優しさが嫌いだった。
 嫌ならば本気で逃げればいいのに。
 腕を振りほどいてこの部屋から出て行けばいいのに。
 もう二度とここへ来なければいいのに。
 何度そう思ったか分からない。それでもシグルドはサイハの手を振りほどこうとはせず、この部屋に来ることを止めようともしない。
 初めは見ているだけで良かった。一度言葉を交わすと、会話が出来るだけで良いと思うようになった。温もりを感じると、触れ合えれば良いと思った。知れば知るほどどんどん彼が欲しくなる。
 足りない。こうして会話して触れ合って、子供のようなキスをするだけでは全然足りない。

「あのね、シグルド。おれはね、」

 掴んでいた腕を離してサイハはベッドへ腰掛けた。立ち尽くす彼を見上げて、言葉を続ける。

「貴方が思っているほど幼くは無いんです」

 何も知らない子供ならばただ抱き合っているだけで満足できたかもしれない。
 けれど幸か不幸か、サイハはもう子供ではなかった。
 他人の温もりだけを焦がれ求める子供ではなかった。
 「貴方が全部欲しくなってしまった」とまるで懺悔するかのように告げるサイハを、シグルドは無言のままベッドへと押し倒す。「もう、止められませんから」と苦しげにそう言った彼の顔は、今までに見たことのないような雄の顔をしていた。


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小ネタでは初のシグ主。ヘタレシグルド。






「磨いても光らなそう」 (幻水2:坊ルク)


 基本的に過去の英雄は暇をもてあましていた。やりたいことはたくさんあるが、比例して時間もたくさんある。何せ老いないのだ。急いで何かをやる必要もない。
 ということで、元天魁星セツナはこの機会を逃せばいつ会えるとも知れない愛しい恋人と愛の語らい(セツナ談)をすることに時間を費やしていた。

「君ってあれだよね」

 宙に浮かんだまま本を読んでいるルックが、石版に持たれかかって一人あや取りをしているセツナへ不意に言う。

「磨いても光らなそう」
「ひでえな、それ」

 口ではそう言いつつも口調は大して気にしてなさそうだ。「でもなんで?」とその理由を問う。

「だって、何でもあっさりこなしそうで『磨く』こと自体必要ないってイメージ」
「つまりは元が良いってこと?」
「端的に言えばね」

 でも、とルックは言葉を続ける。

「それはそれで可哀想な人だね」


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これで愛の語らいになるのだから、坊ちゃんの感性はよく分かりません。






「ありがちな口説き文句で落とせると思ってんの?」 (幻水2:坊ルク)


 好き、大好き、愛してる、大事にするよ、幸せにするから、一緒に生きよう、毎朝君の笑顔が見たい、君がいないと生きていけない、かわいいね、どんな君でも愛せるよ。
 どれほど言葉を尽くしてもまだ言い足りない。たぶん想いを完璧に言葉で表すことはできないのだ。それでも伝えたいものがあるから人は言葉を使う。

「ルッくーん! 今日もびゅりほーでわんだほーだね! 超愛してるよっ!」

 脳が沸いているとしか思えない台詞を平気で人に投げつけてくる過去の英雄。人が真面目に石板を守っているというのに抱きついてこようとするものだから、躊躇なく顔面へロッドを振り下ろす。どうせ自分は非力だ。その上多少殴ったところで懲りるような相手ではない。
 しばらくは痛みに蹲っていた彼は、突然立ち上がるとやはり先ほどと同じようににへら、と締まりのない笑みを浮かべて「連れないー! でも好きだー!」ともう一度抱きついてきた。
 拒否するのも馬鹿らしくて好きなようにさせてやる。ここが城のホールであるとか、彼がトランの英雄であるとかなど気にしたところで始まらない。
 ふぅ、とため息を付いて満足そうに抱きついている彼へ、「ありがちな口説き文句で落とせると思ってんの?」と皮肉を込めて聞いてみる。
 するとにやけた表情を引っ込めて「まさか」と彼は答えた。

「俺が惚れた相手だよ? この程度で落とせるわけないじゃん」

 このナルシストが、と呆れるべきなのか、それともよく分かっている、と感心するべきなのか。ぼんやりとそう考える片隅で、こういう不敵な笑みをすれば少しは格好いいのにと、彼が聞けば小躍りして喜びそうなことを考えていた。


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ナルシスト。




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2009.05.05
















セリフお題幻水その1。
坊ルク多め。