「その顔でその台詞はどうだろう」


「物陰に連れ込んでヤっちゃえばいいんじゃない?」

 にっこりと、天使のように微笑んで言われた悟史の言葉に圭一は、「その顔でその台詞はどうだろう」とため息をつく。
 そもそもは女子連中がいない間に、「好きな奴ができたかも」と悟史に相談したのが始まりだった。
 初めは驚いた顔をしていた悟史も、途中からはきちんと話を聞いてくれ、最後に「これからどうしよう」と言った圭一へのアドバイスがその言葉だった。

「うん、でも行動あるのみだと思うけど」
 待ってたって何も変わらないだろ?

 普段温厚な彼もやはり北条家の血を引いており、時に驚くほどアクティブだ。
 悟史の言葉に「うーん」と唸った後、圭一は「じゃあ」と真正面から彼を見た。

「悟史は物陰に連れ込まれてヤられても、オレを嫌いになったりしない?」

 そう言う圭一に悟史は目を丸くする。その言葉の裏に潜められた想いを読み取ると、「圭一相手ならヤるほうがいいかな」とにっこりと笑った。


**


圭ちゃん逃げて、超逃げて。






「傷ついてるなんて嘘だよ」


「なんでそんなこと言うんだよ、俺はほんとに……!」
「だって、圭一はそういう意味で僕を好きじゃないんだろ?」
「……でも!」
「そういう意味で好きなら分かるけどさ、そうじゃないなら僕が圭一じゃない誰かと付き合っても別に関係ないでしょ」


 傷ついてるなんて嘘だよ。


**


友達を取られた傷ではなく、恋人を取られた傷が付いて欲しいのです。






「甘いと思ってたら意外と苦いや」


 欲しかったのだ、どうしても。
 ようやく取り戻せたはずの日常を捨ててまで、手に入れたいと思ってしまった。
 それが抱いてはいけないものだと分かってはいたけれどそれでも抑え切れなくて。
 華奢な体を掻き抱いて、細い腕の自由を奪って、無理やり奪った彼の唇。
 震える体と、大きな目から零れる涙。
 あまりにも綺麗に泣くものだから、思わず涙に唇を寄せたところで逃げられた。
 舌に残るは彼の涙。

「甘いと思ってたら意外と苦いや」


**


悟史視点。びっくりしちゃっただけだと思うよ、圭一は。






「助けて欲しくないなんて言ってないやい」


 身動きが取れない。
 しくじった。
 そもそも逃げ道があったこと自体疑うべきだったのだ。それは己が見つけ出した逃げ道ではなく、もともと用意されていたものだった。つまりその先にあるものは追っ手からの解放ではなく、事前に仕込まれたトラップ。

「ちっくしょぉぉおお、沙都子の奴ぅっ!」

 悔しさが抑えられず叫んでみるが、事態は一向に好転しない。圭一の体は麻縄で綺麗に縛られており、さらにその縄の逆端は太い木の幹部分にくくりつけられている。手が使えないため縄を解くこともできず、この場から動くこともできない。
 そもそもここに圭一がいることは彼を追い込んだ沙都子しか知らない。しかも今日は少しばかりしつこく苛めてしまったため、彼女の救助もしばらく来ないだろう。

「どうやったらこんな底意地の悪いトラップが仕掛けられるんだ、あいつはっ!! 育てた奴の顔が見てみてぇぞっ!」
「こんな顔してるんだけど」

 だんだん、と地団太を踏みながらの叫びに、不意に返答があった。突然の声に圭一はびくり、と体を強張らせる。
 引きつった笑みを貼り付けたまま振り返ると、いつのまに現れたのか、そこには悟史の姿。

「うちは母がああいう人だったから、沙都子を育てたのはほとんど僕みたいなものなんだよね」 

 ごめんね、と笑みを浮かべて悟史は首を傾げた。そしてその笑みのまま彼は言う。

「沙都子をあんな風に育てちゃった奴に助けられたりするの、圭一は嫌だよね」

 もう一度ごめんね、と謝って悟史は圭一に背を向ける。華奢なようで意外と広い背中に、圭一は「ま、待て、待って待って!」と慌てて声をかけた。
 「なぁに?」と振り返った悟史の笑顔が怖くて、思わず目を背けかけるがぐっと堪えた。彼を逃しては恐らく本当にあと数時間はこのままだろう。

「圭一は助けて欲しくないでしょう?」
「た、助けて欲しくないなんて言ってないやい」
「じゃあどうして欲しいの?」


 圭一が悟史に屈服するまであと数秒。


**


「……悟史はホントに見捨てて行きそうだから怖い」






「早速だが出て行ってくれ」


 一度酷い症状に見舞われ再起の見込めなかった男が戻ってきた。北条悟史という名の彼は、一年のブランクをなかったかのようにすんなりと戻ってきた。
 いや、すんなり、とは言えないだろう、何故なら彼は何をどう狂ったのか、男である圭一に一目ぼれをしたと言って憚らないのだから。

「好きだよ、圭一」

 ところ構わず繰り出される告白に、最近は圭一のほうも慣れつつある。

「圭一が好きで好きで仕方ないんだ」

 もともと整った顔立ちであるため、悩ましげにそう言われると圭一でさえ思わずくらりとくる。

「圭一が望むならどんなことだってしてみせるよ。圭一のためなら何でもやってあげる。圭一は何もしなくていいよ、僕が全部やってあげるから」

 耳元で甘く囁かれ、潤んだ瞳を向けようものならばその場で押し倒されるだろう。過去の経験からそう学習していた圭一は、キッと強く悟史を睨みつけて「じゃあ」と口を開く。

「早速だが出て行ってくれ」
 着替えぐらい一人で出来る。

 びしっと教室の出入り口を指差した圭一へ「えー」と悟史は不服そうに唇を尖らせた。


**


悟史は手伝う気満々でした。




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2009.05.05
















セリフお題ひぐらしその1。