サイは投げられた!41号

BBB スティレオ 78P R-18 文章のみ 400円
収録「秘密結社の副官と構成員はどうにかして結婚式を挙げたい。」
付き合って五年のスティレオが結婚式を挙げるために奮闘する話。
スターフェイズ家をねつ造してます。
以下本文抜粋。






 あとは招待状の手配と発送をそろそろ行わなければ、と四か月ほど先に迫った日取りを前に考えていた時期のことだった。
「次に、異界産動植物の密売の件で追いかけてたアルマスが、どうにも最近派手に動いているようでね。人狼局とも相談してチェインに探ってもらってたんだが、やつら、HL内での流通だけじゃ飽き足らず、とうとう外に目を向けだしたらしい」
 世界の均衡を守るために活動している秘密結社は、構成員同士、同じ任務につかないかぎり互いにどのような仕事をしているのか知らないことが普通だ。しかし、戦闘員として多くの現場に投入されることのあるメンバ、対血界の眷属戦で有用な技を使えるものたちは、定期的に執務室に集まりブリーフィングを行っている。今現在HLで起きていることを大まかに把握しておけば、任務中に不測の事態に陥っても対処しやすいからだ。ただ情報をやりとりするだけの日もあれば、今後予定されている大きな作戦についての打ち合わせをすることもあり、戦えないけれど前線に赴く機会の多いレオナルドも、毎回ブリーフィングには招集されている。半分くらいは、呼びつけてもまともに顔を出さないザップを連れてくる係みたいなものだが。
 その日結社の副官が語るには、違法品売買を行っている会社が、よりいっそう踏み入れてはならない領域に足を向けだしたらしい、ということ。のちにノウハウや流通経路が残らないよう徹底的に潰しておきたい、という考えのもと、念入りに関連業者や卸し先、購入者たちを洗っている最中のことだった。逆に考えれば、こちらの調査がアルマス社にまったくばれていない、という証拠でもある。さすがにライブラや警察に目をつけられている状態で外界への密輸など、大胆なことは行わないだろう。
「先走ってアルマスを潰さなくてよかったかもしれないな。大門をどうくぐるつもりなのかはまだ分かってないが、外界で手引きしてるやつらは掴んだ。警察とも連携して、一斉に検挙する」
 ぱしん、と副官が手にしている資料をはじく音が響いた。アルマス社の調査は基本的に人狼に任されておりレオナルドは絡んでいないが、話だけは聞いている。取引現場そのものを抑えることはまだできていないそうで、おそらくそのときにはレオナルドも投入されることになるだろう、とも。  淡々と説明を続ける副官の声を聞きながら、会社の概要、主要取引物一覧などが添付された資料にざっと目を通していたところで、「あっ」とレオナルドは思わず声をあげてしまった。一斉に集まる視線。ブリーフィングを邪魔してしまったことに汗をかきつつ、青年は慌てて「すみません、なんでもないです」と謝罪を重ねた。
 基本的には真面目な性格をしているレオナルドが、むやみやたらに会議を邪魔するはずがない、と分かっている面々は、少しいぶかし気な顔をしつつ視線を資料へ落とす。進行役のスティーブンも驚いた表情をしていたが、おとがめはないらしい。軽く頷いたあと説明に戻った。
「外界密輸の決行日はおおよそ決まっている。大門をくぐるために大掛かりな準備が必要なのかもしれん。アルマスの内部情報によれば、予定日は四月の九日から十二日にかけて。四日とも使うのか、それとも四日のうちのいずれかに行うのか。まだ四か月先のことだけど、そのあたりに摘発作戦が入ることは確実だから、心得ておいてくれ」
 要するにその日付あたりに予定を入れるな、ということと同義であるが、時期が先であるためほかのメンバはさほど気負わず聞いている様子。唯一慌てているのがレオナルド青年であり、何を隠そう結婚式を行う予定として定めていた日取りが、ちょうど四月の十日だったからである。十日その日に作戦が入るかどうかは未定だが、たとえずれたとしても前後二日以内の間に大きく動くことは確か。つまり、十日の結婚式は難しいという結論にたどり着かざるをえない。
 招待状はまだ出しておらず、日付を正確に知っているものはブライダル会社の担当者や式場、会場の担当者、そして当事者であるふたりのみ。会議を進めながらも、レオナルドが声をあげてしまった理由を考えてくれていたのだろう。途中スティーブンもはっとしたような表情を浮かべてこちらへ視線を向けた。どうやら気が付いてくれたらしい。苦笑を浮かべて小さく頷けば、彼は苦虫をかみつぶしたかのような顔をする。ブリーフィングは次の話題に移っており、ちょうど厄介な案件の情報共有であったため、副官の表情について違和感を抱くものはいなかった。
 つつがなく会議が終わったあと、真っ先にレオナルドのもとへと来た彼は渋い顔のまま「すまん、さっき気が付いた」と謝罪をくちにする。
「四月十日が式の予定日だったな。どこまで進めてたんだ?」
 スティーブンの意向を伺いたい部分以外は、あまり煩わせては悪いだろうとほぼレオナルドひとりで決めてしまっている。一応報告はしているが、日々さまざまな情報に晒されている彼が自分で管理していないことがらまで記憶していないのは当然のこと。そのことを寂しいとは思わない。つまりそれだけレオナルドを信頼してくれているという証でもあるからだ。
 気にしないでください、と笑って、決まっていたことがらを指折り挙げていく。
「装飾とか料理とかは決めただけでまだ発注まではしてなかったですし、衣装もまだですから。キャンセルしなきゃいけないのは式場と会場、進行役さんと司式者さんくらいですよ」
 なんでもないことのように言ったが、それらをキャンセルするのだって労力と時間がかかり、ものによってはキャンセル費も発生するかもしれない。どのように説明すればいいのか、考えるだけで気持ちが落ち込んでくるが、心底申し訳なさそうな顔をしている恋人にそれを悟られるわけにはいかなかった。しょうがないですよ、と笑ってスティーブンの腕をそっと叩く。
「スティーブンさんが悪いわけじゃないじゃないですか。僕だってライブラですし、その作戦には参加するんです。うちはこういう仕事なんですから、プライベートが予定どおりに行くことのほうが珍しいんですよ」
 明日、明後日くらいの近い未来のことであればまだしも、三か月先、半年先といったことになれば本当に何も読めない。世界は何でも起こる。とりわけこのヘルサレムズ・ロッドでは想像以上のことだって簡単に発生してしまうのだから。
「やっぱりね、結婚式をしようっていうのがそもそも難しかったんだと思います。毎回キャンセル料払うのも馬鹿らしいでしょ。式はやめて、記念写真だけとるとかでいいんじゃないですか?」
 それだったら式を挙げるよりも準備に手間がかからず、予定だって調整しやすいと思う。故郷の家族たちには写真を送ればいいだろう、と提案すれば、ふ、と一息吐き出したスティーブンは「そうだな」と眉を下げて頷いた。





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