恋人宣言・11


 突然のククールの行動にエイトは驚いてその身を硬くする。しかしククールは緊張したまま微動だにしない彼を無視して、ただ強く抱きしめた。まず彼にどんな言葉をかけるべきなのか、自分は何を言えば良いのか、頭の中で整理ができるまでその代わりとでも言うかのように、小さな彼を抱きしめていた。
 しばらくそのままでいた後、ククールはようやく「だからお前は何で」と口を開く。

「何でオレに嫌われることが前提なわけ? オレがお前を好きだとかは考えもしないの?」

 彼の話を聞いていて、無性に悲しくなった原因は多分これだ。エイトの中にはククールに好かれている彼というものが想像もできないらしい。それが無性に悲しく、腹立たしかった。
 自分の気持ちを無視されているようで。

 ククールの言葉に、エイトは「でも、だって」と声を上げる。

「ククール、俺のこと好きじゃないだろ?」

 仲間としては好きだ。そこははっきりと言いきれる。しかしおそらくエイトが求めている『好き』はそういう意味ではない。それくらいは分かる。
 ククールは彼を抱きしめる腕を離すことなく、「分かんねぇ」と正直に答えた。

「お前のことそういう意味で好きかどうか、まだオレにも分からない。でも、今までお前が言ってた『好きだ』って言葉が全部嘘だったのかと思ったら、凄いむかついたし、悲しかった。
 うん、そう思うとオレ、お前のこと好きなのかもしれないな」

 言葉にするとそれが事実であるように思えてくるから不思議だ。
 事実の見極めを間違えてはいけない。おそらく酒場を後にするときゼシカが言った「間違えるな」はこういう意味だったのだ、と今になって思った。

 こうして抱きしめることも嫌ではない、むしろ抱きしめたいと思った。一人で耐えているその姿を見て無性に強く抱きしめたいと思った。
 いまだ力なくククールに抱きしめられるままのエイトの顎をつかみ、上を向かす。そのままゆっくりと、重ねるだけの軽いキスを落とした。
 キスをするのも嫌ではない。女性のような柔らかさはあまりないが、それでも唇を落とすたびにどこか甘く感じる。
 何度かついばむようなバードキスを落としてから、ククールは何かに納得するかのように、うん、と小さく頷いた。そして唇が触れ合うかのような距離で、口を開く。


「オレ、お前が好きだ」


 今度はかもしれない、という推定ではなく、きっぱりとそう断言する。
 断言できる、ククールはそう思った。仕方がない、これが事実なのだ。
 いつからかは分からない、エイトが惚れたと宣言をしてきたときからか、それとも利用されていたと気づいたときか、あるいはもしかしたら出会ったその瞬間か。
 ククールもエイトが好きだったのだ。仲間としてではなく、そういう意味で。

 言われた言葉の意味を理解するのに時間がかかっているのだろうか、エイトはきょとんとした顔でククールを見上げてくるだけで、その顔に思わず口元が緩む。

 ずいぶんと久しく、「愛しい」なんて感情、忘れてたな。

 そんなことを思いながら、ククールは抱き込んでいる彼の顔中にキスの雨を降らせた。

「どうした、エイト? いつもみたいに抱きついてこいよ。いつもお前が外でオレに仕掛けてるみたいに。
 目いっぱい抱きついてこい」

 その言葉を聞いて、恐る恐るエイトの両腕がククールの背中へと向かう。きゅ、と弱く服を握られたのを感じ、ククールはお返しに、と抱き込む腕に力を込めた。

 抱きついたら、抱きしめ返してもらえる。

 その事実に思わず溢れそうになった涙を隠すように、エイトはククールの胸に顔をうずめて強く彼に抱きついた。
 ククールも同じだけ彼を抱きしめ返す。
 今までの関係を補うかのように、ただ黙って互いの体温を感じていた。





**





「つーことで、俺ら晴れてコイビトになったから」

 以前と同じように、エイトはパーティメンバの前で突然そう宣言した。
 奴には恥じらいってもんがないのか、と軽く頭痛を覚え、ククールはやはり以前と同じように額を抑える。そしてエイトもそんな彼を無視して、言葉を続ける。

「あれ、俺のだから取っちゃ駄目だよ」

 あれ、とククールを指差してそんなことを言う。
 聞いていたゼシカは「要らないわよ、あんなの」と苦笑を浮かべた。
 彼らの表情を見ていると、どうもエイトの言葉を本気と捕らえていないらしい。それもそうだ、彼の普段の言動を省みたら突然の宣言などまたいつもの気まぐれとしか思われないだろう。
 おそらくエイトもそれが分かっているからこそこんな宣言を行ったのだ。

 困るオレを見て楽しい、とかそんな理由かな。

 適当にその原因を推測し、ククールは小さくため息をつく。
 今までの彼ならばまたふざけたことを、と軽い怒りを覚えるだろう。エイトにからかわれているのではないだろうか、と不快に思うだろう。
 しかし、彼は既にエイトの本音を知ってしまっている。普段の言動に隠されたその裏に何が潜んでいるのか、どんな彼が押し殺されているのか、あの夜痛いほど直視してしまった。

 あれを許せるってのはやっぱり、エイトに惚れてるんだろうなぁ。

 そんなことを思いながら、ククールはエイトの側へと歩み寄った。そしてぽん、と肩をたたく。
 何、と彼が振り返ったところで、すばやくその唇を奪った。
 ゆっくりとしかし濃厚に可愛い恋人の甘い唇を堪能し、満足したところで、顔を上げて宣言をする。

「これ、オレのだから手ぇ出すなよ」

 仕掛けられたほうはもちろん、それを一部始終見ていたゼシカたちも唖然とククールを見ている。
 案外こういうのも楽しいもんだな、と普段悪戯を繰り返しているエイトの気持ちが少しだけ分かった。
 にやり、と意地の悪い笑みをククールが浮かべたと同時に、事態を把握したエイトの顔がみるみる赤くなっていく。


 その後、エイトが真っ赤な顔をして「ククールッ!」と怒鳴りつける、いつもとは逆の光景を拝むことができたとか。




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2006.01.18








ようやく終了、お付き合いいただきありがとうございました。
しかし甘いな。