僕へのプレゼントだよね? ひょんなところからひょんなものを手に入れた。 今日はクリスマスイブ。 となれば。 疲労を抱く身体を引きずって城内に宛がわれた私室へ戻れば、勝手に侵入したらしい親友兼恋人がケーキを貪り食べていた。しかもミニスカートのサンタ服で。 入口に呆けたままでいる恋人を見やり、「よ、邪魔してるぞ」とユーリは片手を上げて挨拶をする。が、フォークに刺したケーキのスポンジが落ちそうであったため、慌てて甘味の摂取へ意識を戻した。 もちろんこのケーキは自作のものである。趣味で作ったものよりプロが手掛けたものの方が美味いに決まっているのだが、それでも「ユーリが作ったものの方が良い」と言い切る彼のために宿の厨房を借りて作ってきた。それを抱えてフレンの部屋へ入り込み、準備を済ませて彼氏を待つこと半時。 仕事を終えた恋人がようやく戻ってきたが、何の反応もない。黙々とケーキを味わっていたユーリもさすがに気になり始め、フォークを咥えたまま再び扉の方へ視線を向ける。丁度そのタイミングでぱたむ、と後ろ手でドアを閉めたフレンが、無言のままつかつかと部屋を横切っていった。 「フレン?」 表情が読めず、眉を寄せて首を傾げる。怒りを覚えているようにも見えるが、何がスイッチだったのかがよく分からない。今回の服装が好みではなかったのだろうか、と己の姿を見下ろす。確かに今までにしていた女装より少し可愛らしい系の服だ、とは思う。バスト部分に白いファーのあしらってあるチューブトップのワンピースで、座っているため分かりづらいが何枚か重ねてはいている(そうするよう言われたからだが)ためスカートはふんわりと広がっている。フードつきの赤いポンチョ(というらしい)を肩に羽織っているが、その裾にも白いファーがあしらってあり、誰が見てもサンタクロースをモチーフにしてあることが分かるだろう。 もう少しセクシー系が好みだったのか、あるいはケーキを先に食べていたことが気に入らなかったのかもしれない。崩れた円を描くスポンジケーキを見下ろして考えていたところで、「ユーリ」とようやく恋人が口を開いた。部屋の片隅に置かれたクローゼットを開き、ごそごそと中を漁ったあと振り返る。 「折角のミニスカートなんだから、やっぱりこれつけなきゃ駄目だと思う」 至極真面目な顔をしてずい、と寄越されたものは白い布。右手で摘まみあげてみる。びろろ、と伸びたものはおそらく太腿あたりまで長さのあるストッキングで、ぱさり、と床に落ちたものはその下に重ねて置いてあったガーターベルト。 それらが何であるのかを脳が認識したと同時に「謝れっ!」とユーリは叫んでいた。 「オレとカロルに謝れっ!」 つかそもそも何でこんなもんがクローゼットに入ってんだ、お前はっ! がたん、と立ち上がってそう怒鳴るユーリを前に、テーブルから落ちかけていたフォークを救いながら、「何でって言われても……」とフレンは首をこてん、と右に傾けた。 「嗜み?」 「何のっ!?」 更に声を荒げたユーリへ冗談だよ、と笑った後、「ところで、」とフレンは恋人の手首を掴んだ。 「どうして君とカロルに謝らなきゃならないのかな?」 問いかけてくる男の表情はにっこりと穏やかな笑みではあったが、誤魔化しは許さない、逃げることなど言語道断と言わんばかりの迫力を持っている。笑顔の脅しを前にひくり、と口元を引きつらせたユーリは視線を泳がして言葉を探したが結局洗いざらい話してしまうことにした。おそらくそれが自分自身にとっても最良の選択である、と誰かがそう教えてくれているような気がする。 ミニスカサンタのコスプレ衣装を二着、手に入れた。ユーリとカロルと、ふたりが着ることができるぴったりのサイズのものをジョークグッズとして押しつけられた。それらを前にし、どうせクリスマスはそれぞれ恋人と過ごすのだから、着てみてそれぞれ恋人の反応を当てあおうではないか、と。 「……お酒でも飲んでたの?」 確かにその話をしたときユーリには少しアルコールが入っていたような気がする。否定せずにいれば大きくため息をつかれてしまった。呆れられても仕方ないほど馬鹿げたことをしている、という自覚はあるが。 「ま、イブだしな」 これで少しでもカロル先生たちんとこが盛り上がれば。 喉の奥でくつりと笑って言うユーリの言葉に、フレンは苦笑を浮かべて息をはく。ひねくれていて素直でない恋人は、彼なりに幼いギルド首領の恋を心配しているらしい。応援の仕方が彼らしいといえばそうだが、もっとほかに手はないものだろうか、と思わなくもない。 「それで、カロルはどんな予想をしてたの?」 先ほどの怒りようから、フレンがとった行動はおそらく少年が考えていたものとはかけ離れた反応だったのだろう。もちろん、何の裏もなくユーリがこのようなことをするはずがない、と察していたがため、敢えて普段しないようなことをしてみたのだが。 「あいつは、フレンが怒るんじゃねぇか、っつってたな。何ふざけたことしてんだって」 その答えにふぅん、とうなずいた後、フレンは「今度会ったらカロルに言っておこう」と口を開いた。 「このくらいで怒ってたらユーリの親友も恋人もやってられないよ、って」 多少の嫌みを込めたその言葉にさえ、「違いねぇ」とからから笑うのだから、怒りを覚えることさえ無駄な気がしてくる。 「ちなみにオレの予想するおっさんの反応は、そのまま抱きついて押し倒す」 「それは……」 過保護の気のあるあの男が、大事に大事に愛してる少年の可愛らしい姿を前にそんな野蛮なことをするとは思えなかったが、ユーリがそれくらい分かっていないはずがない。おそらくはあちらのカップルでもこうしてネタばらしをした上で、互いの予測を言い合っているはずで、炊きつける意味も多分にあるのだろう。 君ってやつは、と苦笑を浮かべれば、首領想いの良い部下だろ、と返ってきた。 「ついでに、ダンナへのサービスもしてんだから、出来たヨメだとも思うぜ?」 正面に歩み寄ってきたユーリはフレンの両肩へ腕を乗せ、口元を歪めてみせる。ついでなんだ、と眉を寄せながらも腰へ腕を回してくるのだから、きっとフレンだって満更でもないはずだ。 引き寄せられるまま腕の中へ収まり、軽く触れあわせるだけのキスを数度。ぺろり、と唇の端を舐めた後、「その上」とフレンは口を開いた。 「よく出来たサンタさんでもあるよね、君は」 くつりと笑って紡がれた言葉に、「オレ、まだ何も渡してねぇけど?」とユーリは首を傾げる。一応クリスマスに恋人の部屋を訪ねるのだ、それなりに用意はしてきていたがまだ荷物から取り出してさえいない。 しかしフレンはだってこれ、と腰を抱く腕に力を込めて言う。 「僕へのプレゼントだよね?」 ありがたく頂くことにするよ。 耳元でひっそり囁かれた言葉に頬を染めながら、「残したら承知しねぇぞ」と返しておいた。 ブラウザバックでお戻りください。 2011.12.24
きちんとストッキングとガーターも着てあげたそうです。 |