キラッ☆



「ノーコンの星空ってどういうこと? ピッチャー務まらないぜーみたいな?」
「リン、濃い紺色で濃紺な。ノーコントロールじゃないから」

 リビングでミクがおもちゃのマイクを握って「星間飛行」を熱唱している。その歌詞を聞きながら首を傾げた双子の姉へ、レンが呆れたようにそうツッコミを入れた。

「あ、ミク姉ちゃん、もっかいそこ歌って?」

 リンの言葉に笑って頷いたミクは、一フレーズ前からもう一度歌い始めた。
 巷で人気のその曲を明日、リンがソロで歌う予定なのだ。ミクはずいぶんと前にそれを歌っていたし、メイコとレンもすでに経験しているので、今はみなで彼女の練習に付き合っているところである。

「あんたたちがやると可愛いんでしょうけど、さすがに恥ずかしかったわね、それ」

 メイコが苦笑を浮かべて言うと、「これ?」とミクとリンがそろって「キラッ☆」とポーズをとった。

「メイコ姉さんのも可愛かったよ?」

 レンが言うと「何言ってんのあんたは」と言いながら、まんざらでもなさそうだ。

「ミクもメイコお姉ちゃんの、好き! 可愛いよね」
「メイコ姉ちゃん、マイク、パス! ほら、歌う!」

 無理やりリンにおもちゃのマイクを押しつけられ、三人での合唱が始まった。サビに入る手前で「あんたもやるの」と言われたため、レンも投げやり気味に「キラッ☆」とポーズだけ合わせておく。
 すると隣に座ってにこにこと家族を見ていたはずの兄が、大きなため息をついたことに気がついた。

「兄さん? どうかした?」

 尋ねると、「いいなぁ」と呟く声。

「……何が?」
「おれも『キラッ☆』ってやりたい」

 何を言い出すかと思えば、またずいぶんとおかしなことを言う。確かにまだ彼は仕事としてこの歌を歌ったことはないが。

「やればいいじゃん」

 別に誰もやるな、と禁止したわけでもないのだから、ここで一緒にやっても問題はない。しかしそう言うレンへカイトは悲しそうに首を振り、ソファの上で抱えた膝に顔をうずめた。

「レンならまだしも、おれがやったら気持ち悪い……」

 だからやらない、とカイトは言う。

「……でもたぶん、そのうち兄さんも歌うことになると思うけど」

 これだけ人気のある曲だ、近いうちに彼にも仕事としてくるだろうことは想像に難くない。

「仕事ならできるけど」

 仕事ではない今はやりたくても恥ずかしくてできない、とそういうことらしい。さすが「仕事が選べない」というタグが付くことの多い彼だ。プロ意識が高いのはいいが面白くない。自分の前でできないことが仕事だと出来てしまう、なんて。
 非常に面白くない。

「大丈夫だって、兄さんがやっても気持ち悪くなんかないよ。それにほら、ここには俺たちしかいないし。今のうちに練習してみたら?」

 そう言って兄をそそのかし、リンが放置したままだった歌詞を手に取った。自分で歌ったことがないとはいえ、今まで散々兄弟の練習で聞いてきたのだ、カイトも音をとることはできるだろう。

「ほら、俺も付き合うし。
『触れ合った指先の』」

 リンの邪魔にならないように小さく口ずさむと、カイトも歌に乗ってきた。問題の(というほど大げさなものでもないが)フレーズはサビの手前に入っている。

『悲劇だってかまわない あなたと生きたい』

 ショタだなんだと言われているが、レンだって列記とした男であり、さすがにこのポーズにこのフレーズは恥ずかしいものがある。しかしカイトのために、と羞恥を振り切って「キラッ☆」とポーズをとると、ワンテンポ遅れて「キ、キラッ?」とカイトも首を傾げた。

「何で疑問形なの。もう一回二番にあるからね」

 初めから一緒にやってもらえるとは思っていなかった。そう念を押すと、歌いながらカイトは小さく頷く。ちらりと女性陣の方へ目を向けると、彼女たちはリンの練習に付き合うのに手一杯なようで。

「姉さんたちもこっち見てないし、ちょうどいいじゃん、ほら、
『あなたの名 呪文みたいに 無限のリピート』」
『憎らしくて 手の甲に 爪を立ててみる』

『キラッ☆』

 ぴたりとレンが口を閉じたため、カイトだけの「キラッ☆」だった。

「兄さん……ものすっげーかわいくて、めちゃくちゃかわいくて、今すぐ押し倒したいくらいなんだけど……」
 何で指が「グワシ」なの……。

 というかむしろ、グワシのできる兄がすごい。




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2008.09.23





















若い人は知らないでしょうかね、グワシ。中指と小指だけを曲げるの。
もちろん小具之介はできませんよ、そんな器用なこと。
タイトルが思いつかないからってこれはないだろうとは思ってます。

星間飛行メドレー ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm4129216