4月1日


 裏山のトラップに悟史が引っかかってたぞ。
「ひ、ひどいですわ、圭一さんっ! わたくしを騙しましたのねっ!!」

 沙都子の姿が見えないなぁ。うーん、メイド服を大量に抱えた監督とすれ違ったけど、まさか、な。
「みぃ、圭一、ひどいのです。……この私を騙すなんてあんた、いい度胸ね」

 一昨日興宮のおもちゃ屋行ったら新しいボードゲーム仕入れたって聞いたぞ。
「ちょっと、圭ちゃん! さっき電話したらそんなもの仕入れてないって笑われちゃったよ、ああ、もう、やられたっ!」

 宝の山にケンタくん人形がもう一体あるの見かけたんだけど。
「はぅ、圭一くん、ひどいよひどいよ! レナ、探しに行ったのにぃ」

 さっきキムチを抱えた梨花ちゃん見たけど、何かしたのか?
「あぅあぅ、嘘だったのです! 梨花はキムチを持ってなかったし、ボクも何もしてないのです!」

 今日の罰ゲームは悟史でさ、猫耳メイドで古手神社まで。
「圭ちゃん、騙しましたね!? もう、エイプリルフールに本当に嘘つくなんて、お子ちゃまにもほどがありますっ!」


 部活メンバの罵声をあらかた聞き終わり、満足したように笑っている圭一の隣で悟史が「さすが口先の魔術師だね」と呆れたような笑みを浮かべていた。
 今日一日すっかり圭一の嘘に騙されてしまった女性陣は「もう圭ちゃんなんか知らない!」「一人寂しく遊んでいるといいですわ!」と先に帰ってしまった。そんな彼女達を「また明日なー」と送った圭一の側には、当然のように悟史の姿がある。

「で、圭一。僕には嘘をついてくれないの?」

 笑いながらそう尋ねてくる彼に、「それがさぁ」と圭一は眉を寄せる。

「悟史にはどんな嘘言えばいいのか、面白いのが思いつかなかったんだよ。何言っても騙されてくれなさそうだし。沙都子をネタにすると梨花ちゃんのと被っちゃうし」

 同じ嘘をつくのは彼の中では避けなければならなかったことらしい。

「梨花ちゃんに何かあった、とかでも僕は騙されてたと思うよ? もちろん他の子でもそうだと思うけど」

 そう言う悟史へ、「それは俺がいやなんだよ」と圭一は唸った。

「沙都子はまだしも、他の女の子達のことで悟史が慌ててるのはなんかイヤだ」

 彼のその気持ちが友人に対する心配であることなど百も承知だ。圭一だって同じ気持ちを彼女達に抱いている。だからといって、その場面を自ら引き起こす必要はないと思うわけで。

「……圭一、それが僕に対しての嘘、ってわけじゃないよね?」

 悟史は口元を押さえながらそう言葉にする。そんな彼へ圭一は「だから、悟史に言う嘘は思いつかなかったんだってば」と眉を寄せた。どうやら自分の発言の意味に気付いていないらしい。
 遠まわしな、嫉妬。しかしいつもの彼の言葉に比べると、それは十分すぎるほど直球なもので。

 教えてあげてもいいけど、それじゃつまらないしなぁ。

 どこか鈍いところのある彼は、自分では気付けないかもしれない。それでも耐えることにかけては少し自信がある。彼の側でならおそらく、いくらでも待てるだろう。

「来年はちゃんとすごいの考えとくからな」

 覚悟してろよ、と笑う圭一は、悟史が、来年もまた一緒に笑ってくれるのか、と安堵したことを、おそらく知らない。




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2008.04.02
















病まないでひぐらしって難しいな。