肌寒い仕返し 寝汚い方ではない。むしろ寝が浅くすぐに起きてしまう方だ。しかしそれは側にレッシンがいないことが前提で。ぐっすり眠っている間に近づいてくるのが、心を許した家族同然の相手でなければ、の話。 「ぅー…………？」 ふ、と意識が浮上し、すぐに違和感に気づく。普段の服装から上半身に何も身につけていないことは多いが、下に何も穿かないということはまずあり得ない。さすがにそれをやってしまうと変態という部類に入れられるだろう。レッシンとそういうことをする仲になったあとでも、朝目が覚めるときちんと寝間着を着ている。リウが意識を飛ばしてもレッシンがきちんと着せてくれているのだ。そういった気遣いとは無縁に見えるレッシンだが、リウのこととなると意外に世話焼きだ。ただでさえ体力のない彼に無理をさせた後なのだから、風邪でも引いたら大変だ、というレッシンなりの優しさなのだろう。 そもそも昨日の夜は何もせずに、普通に眠ったのだ。だから目覚めて下半身が肌寒い、ということはまずないはずなのだが。 寝がえりを打って背後に寝ていたレッシンを見やる。彼のいたずらかとも思ったが、こちらに背を向けた状態で肩が規則正しく上下していた。何かない限りレッシンが先に起きているということはないのだ。 「…………？」 疑問に思いながらも窓の外を確認し、起きる時間であることを確認するとそのままレッシンの体をベッドの外へと押しやっていく。これはもうすでに条件反射のようなもので、こうしないとレッシンは起きないのだ。 どさり、ごん、と鈍い音を立ててレッシンがベッドの下に落ちる。そんな彼を踏まないように立ち上がり、やはり自分がズボンをはいていないことに首を傾げた。昨日は上も着ずに寝たため、パンツ一枚の姿である。 床の上に転がって起きる気配のないレッシンを放置して、ばさり、と布団を剥ぎ取る。眠っている間に脱いでしまったのか、と思ったが、布団の中には残されていない。ベッド周辺も探ってみたが、落ちている様子もない。 首を傾げて無言のまま着替えを捜す。 「………………ねーし」 が、部屋のどこを探してもズボンがまったく見つからなかった。リウのだけではなく、レッシンのものも見つからないのだ。ここまでくるとなんとなく事態が読めてくる。 さすがにパンツ一枚で城の中をうろうろするわけにもいかないので、丈の長い上着を探して羽織るととりあえず隣の自分の部屋へと向かった。まだ数着こちらにも残っていたはずだったのだが。 「…………っのやろッ」 当たり前とでも言うかのようにごっそりと持って行かれていたことに、リウは舌打ちをして部屋を飛び出した。 「ジェイル！ オレの服返せッ！！」 朝とはいえ、早起きの人間は既に活動している時間帯だ。格闘家であるジェイルもその母セレンも起きているだろう、とリウは遠慮のかけらもなく彼らがいる部屋の扉を蹴りつけた。 「ちょっと、なによ、朝っぱらからうるさいわねぇ」 騒ぎを聞きつけたマリカが隣の部屋から顔を出す。その後ろから現れたシスカは「あらあら」とリウの格好を見て目を丸くした。 「そんな格好じゃ風邪引くわよ？」 「オレだって好きでこんなカッコ、してねーし！」 膝上まであるシャツのせいでかろうじてパンツは隠れているが、逆にそれが何も穿いていないように見えてしまう。だからといって、パンツを見せたまま城を歩けるほどリウの神経は図太くないのだ。 「ジェイルっ！」 もう一度どん、と扉を蹴ったところで、「朝から元気だな」と背後から声が掛けられた。 「元気だな、じゃねーよ！ いいからオレのズボン返せっ！」 のんびりと現れた元凶にリウはそう言って詰め寄った。胸倉を掴んでがくがくと揺さぶると、とぼけるかと思っていた彼は「ああ、お前らの服なら」とにやりと笑みを浮かべる。 「洗濯しといた」 そういって窓を指さす。目を見開いてジェイルから手を離すと、リウは恐る恐る窓へ近づいて身を乗り出した。 「…………全部、ですか……？」 「この間の三つ編みの礼だ」 やっぱりね、と後ろでマリカが苦笑を浮かべている。彼らが見つめる先には、レッシンとリウのズボンやパンツが、ひらひらと風に揺らめいている光景が広がっていた。 「ていうか、寝てる間に服脱がされるって、あんた、どんだけ間抜けなの」 マリカの呟きに言い返すこともできず、リウはがっくりとその場に項垂れるしかなかった。 「オレのズボンとパンツ、返せっ！！」とレッシンが怒鳴りこんでくるのはすぐ後のこと。リウとは違いパンツまでも奪われていたらしいレッシンは、とりあえず同じように丈の長い上着を羽織っていた。しかし彼はすべて洗濯されてしまったと聞いて、「こうなったら今日一日全裸で過ごしてやる」と鼻息荒く宣言する。 それを泣いて止めたのは、ジェイルでもマリカでもなく、リウ一人だけだった。 ブラウザバックでお戻りください。 2009.03.13
ぶかぶかの服っていいよね。 誰かイラスト書いてください（笑） |