「『あいにく』という言葉を使って文章を作りなさい」


エイトの場合

「『あいにく』? えー、あいにくー、あいにくー、愛と肉ぅー?」
「エイト、漢字が違う」
「生きる憎しみで『生憎』よ」
「生の憎しみ!?」
「そこは強調しなくていいから、質問に答えろよ」
「えーっと、そうだなぁ、んー、『本日はお日柄もよく』」
「どこにも『あいにく』って入ってねぇじゃん」
「『新郎新婦の新しいスタートを祝福するかのようですが』」
「長いわね」
「結婚式のスピーチでげすか」
「『あいにくと体調の思わしくないわたくしが、本日の司会を務めさてて頂きます』」
「お前の体調なんぞどうでもいいっ! ってか、何の嫌がらせだよ!」


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エイトなら結婚式で「マツ○ンサンバ」を振りつきで歌う。きっと踊って歌う。






ヤンガスの場合

「うー、アッシ、こういうの苦手なんでげすよ……『あいにく』でげすね? えー、っと……
『高級な牛肉だったが、あいにく焦げてしまった』……とか、おかしいでげすか?」
「ヤンガス、本とかあまり読まないでしょう?」
「必要ないでげすからね」
「駄目だぞ、ヤンガス。これからは山賊も頭が勝負だ。俺が問題集を調達してきてやるから、ちょっと待ってろ」
「あ、兄貴……アッシのために……」
「感動してるところ悪いけど、あいつがまともな問題集を持ってくるはず、ないと思うぞ?」
「私は小さい子が遊ぶ『めいろの本』とかだと思うわ」
「オレはゲームブックだと思うな。ほら、Aだと思うなら何ページへ、Bだと思うなら何ページへ進め、とかってやつ」
「……せめて『書き方の本』とか持ってこないでげすかね」
「あ、戻ってきた」
「ヤンガス! これでしっかり勉強しろ!」
「何持って来たの、エイト?」
「『ビーズアクセサリの作り方』」
「…………お前は一体ヤンガスにどんな子に育ってもらいたいんだ?」


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優しくておしとやかで控えめで家庭的な子。






ゼシカの場合

「『本日はあいにくの雨で、どこの行楽地も人がまばらだった模様です』」
「あー、ニュースとかで言ってそう」
「春は特に雨、多いからなぁ」
「お花見とか、よく雨でつぶれたりするでげすよね」
「『あいにくの雨で』って、一つのフレーズみたいになってるもんな」
「でも、正しい文章過ぎて、面白みがない。3点」
「うるさいわね、エイト。こんなもので受けを狙ってどうするの」
「国語の先生を悩ますようなものにしないと意味ないじゃん。『正しい使い方なんだけど、良いのかこんな文章に点をあげて』って先生が考え込む文章にしないと!」
「…………私、これから先、もし何か天変地異が起こって教師になったとしても、絶対にエイトの担任にだけはならないと今ここで誓うわ」


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天変地異が起こらない限り教師にはならないだろう、という自己分析ができている姉さんが素敵。






ククールの場合

「『せっかくの誘いだけど、あいにく先約が入ってるんだ』」
「二股かけてたときに使ってたっぽい台詞ね」
「バカ言うなよゼシカ。オレが二股なんかかけるわけないだろ」
「ここまで説得力のない言葉も珍しいでげすね」
「いやむしろ説得力抜群だと俺は思うぞ?」
「さすがエイト! オレのことよく分かってるよな」
「まかせとけ。いいか、二人とも。この男が女二人程度で満足するわけがないだろう!」
「その通り!」
「…………」
「…………バカが二人いるわ」


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「で、結局何股?」と聞いたら、おそらく「数えたことがない」と答えてくれるだろう。






トロデ王とミーティア姫の場合

「何、『あいにく』? むー、そうじゃのぅ。
『お主の剣技も中々じゃが、あいにくとわしの方が数段上だったようじゃの』とかはどうじゃ?」
「剣術の試合における勝ち台詞ですね。さすが陛下。素晴らしい文章です」
「おっさん、剣、扱えたんでがすか」
「扱える扱えない以前に、まずトロデ王の身長に合うような剣があるってことの方が気になるな」
「世の中には自分の身長よりも大きな剣を振り回す人だっているわよ? トロデ王がククールのサーベル振り回してたらそんな感じになって、案外カッコいいんじゃない?」
「ぬぅ……お主ら、好き勝手言いよってからに」
「はい次。ミーティア姫、どうぞ?」
「ええと、なんだか緊張しますね、こういうの。そうですわね、こういうのはどうでしょう。
『あいにくとわたくし、愚民がどうなろうと興味ありませんの』」
「…………う、馬姫さま……?」
「ミーティア姫……」
「姫殿下、素晴らしいお答えだと思いますが、一つだけ宜しいでしょうか?」
「なぁに、エイト?」
「そのお答えだと、前の言葉がないと意味が通じにくいかと。たとえば『今年は農作物が不足しているそうだけど』という言葉を前にお付けになったら如何ですか?」
「まぁ! そうですわね。さすがエイトですわ」
「お褒めいただきありがとうございます」
「いや、っていうか、問題はそこじゃない。絶対にそこじゃない」
「私、トロデーンの人間じゃなくて良かった……」


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…………本当に、姫をこの方向で走らせても良いですか?




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2006.05.18








拍手お礼小ネタ第七弾。
国語の宿題。