「見えないんじゃなくて、見ていないだけ」


 いつまではぐらかすつもり? と、いつも以上に真剣な顔して問い詰められ、エイトは言葉に詰まる。整った彼の顔が近くにあるというだけでも心臓に悪いのに、紡がれる言葉がエイトを追い詰める。

「お前があんまりにも言ってくれないものだから、オレのガラスのような心はぼろぼろよ?」

 それでもどこか逃げ道を用意してくれているかのような軽口に、エイトは多少ほっとして、思わず言葉を返す。

「ガラスのような心? 見えねぇな」

 しかしどうやらククールはエイトを逃がすつもりはないらしい。憎まれ口を叩く彼のあごを捕らえ、唇が触れそうなほど近づけて「見えないんじゃなくて、見てないだけ」と囁いた。

「本当はエイトも分かってるだろ?」

 この問いに頷くわけにはいかなかった。たとえ分かっていたとしても、頷けない。ここで頷いてしまえば彼の言葉だけでなく、彼の気持ちも自分の気持ちもすべてを肯定してしまうことになるから。
 それだけはできなかった。
 彼を好きである、など、エイトには到底認められないことだ。男としてのプライドがどうの、というよりも、それを認めてしまえば際限なく溺れてしまいそうで、彼以外がすべてどうでもよくなってしまいそうで、己の嫉妬深さと貪欲さが怖くて。
 ふるふると首を振ったエイトに、ククールは暗い笑みを浮かべてその唇を貪った。


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お題を使っての小ネタに挑戦。






「覚えてろ!…や、待った覚えて無くていい」


「あー、畜生。散々好き勝手やりやがって」

 ベッドの上、真っ白いシーツに包まって、エイトはかすれた声でぼやく。足の付け根が痛い、背中が痛い、腰が痛い、そしてなによりありえない場所が痛い。

「よく言うよ、気持ちよさそうにしてたの、誰だよ」

 スラックスだけを履いて上半身裸のままの彼は、冷えた水の入ったグラスを手に持っている。当然とばかりにそれを受け取りながら、もう一度エイトは「畜生」と呟いた。

「覚えてろ!…や、待った覚えて無くていい」

 ククールの目を見て言ったものの、覚えられて困るのは自分の方だ。出来れば早く忘れてほしい。あんな痴態、自分でも信じられないのだから。
 そんなエイトの思いが通じたのか、空になったグラスを受け取りながらククールは「分かった」と笑みを浮かべた。

「すぐに忘れるから、忘れても大丈夫なように何度でもヤらせてな」


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どっち言っても一緒。






「俺のスマイルを0円と言うのか!?」


 ちょっとした言い争いをしてふてくされていたエイトへ、「ほら笑え」とククールが声をかける。

「スマイル0円って言うだろ」
「俺のスマイルを0円と言うのか!?」

 ただであるはずがない、と言外にそう含ませたエイトへ、ククールは「でも」と言葉を紡ぐ。

「オレの前で笑ってくれたらそれはオレのための笑顔だろ。オレのものなのにどうして金払わなきゃならないんだ?」

 さらり、となんでもないことのように口にされた殺し文句に、エイトは真っ赤になって口ごもるしかなかった。


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素で言ってるにーさん。






「懐と髪の毛が寂しいのか?」


 はあ、と大きく吐かれたため息に、ベッドに寝転がってトーポと遊んでいたエイトが顔を上げる。視線の先にはため息の主、ククールが物憂げな表情で机に肘を突いて本を呼んでいた。

「どうしたククール」
 懐と髪の毛が寂しいのか?

 そう言うと飛んでくる本。

「ァ、っぶねぇじゃねぇかっ!!」
「お前が失礼なこと言うからだろうが」

 どっちも寂しくねぇよ、と吐き捨てられる。

「じゃあ何だってそんなでっかいため息ついてるの」

 意味が分からん、と言うエイトへ「お前の中でため息の理由って金と髪の毛だけかよ」とククールはもう一度ため息をついた。

「そうじゃなくて、そういえばオレ、一回もエイトからキスしてもらったことねぇなって思って寂しくなっただけだよ」

 寂しいは寂しいだが、それは決して懐や頭ではなく、しいて言えば口、だろうか。
 ククールの言葉にそうだっけ? と首を傾げたエイトは、トーポをサイドテーブルへ置くとベッドから降りて近寄ってきた。

「これでもう寂しくない?」

 ただ唇を重ねただけの可愛らしいキス。

「……できればもう少し大人のキスがいいな」

 笑ってそう言うと、ククールはエイトの頭を引き寄せた。


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たまには甘く。






「おかし貰ってもついて行くんじゃないぞ?」


 だって、いつもククールが言ってんじゃん、「おかし貰ってもついて行くんじゃないぞ?」ってさ!

 切っ掛けが何だったのか、もう覚えていない。とりあえずエイトと喧嘩をした。拗ねて宿屋を飛び出したエイトを連れ戻そうと餌を用意してみたがなかなか釣れてくれない。

「確かに言ったけどさ、そりゃ知らない人間に、って意味だ」

 はあ、とため息をついて、手にした飴玉を無理やりエイトの口の中に突っ込んだ。

「分かった、じゃあおかしじゃなくて別のものをやるから、とりあえず戻って来い」

 このまま外にいては夜が更けてしまう。空を見上げてそう言うククールに、口をもごもごとさせながら「何くれるの」とエイトが尋ねる。
 ククールがわざわざ迎えに来てくれたこと、機嫌を取るために飴玉を用意してくれていたことでエイトの機嫌もかなり戻ってきているようだ。
 それを確認したククールはトドメとばかりににっこりと笑みを浮かべ、「オレ」と自身を指差した。


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たらし。




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2009.05.05
















台詞お題を使った小ネタ。