言い訳だらけの馬鹿ップルに溜息。」の続き。


   言い訳すらしない馬鹿ップル。


 神木出雲の証言。

 彼女はその日、休日を利用してショッピングにやってきていた。親友も誘おうかと思ったが、特に目的もなくひとりで回りたい気分だったため出かける旨だけ伝えてある。多数の専門店の集まったショッピングモールを適当に歩きながら、服と靴を眺め、アクセサリーや雑貨を手に取った。柔らかなウサギを模したスリッパを前にひとしきり悩み、先日スリッパを新調したばかりであったため泣く泣く諦める。先にこのウサさんスリッパに出会えていたら迷わず買っていただろうに、惜しいことをした。
 けれど、そのスリッパ周辺には同じふわもこウサさんシリーズの雑貨が集めてあったため、せめて何か一つ欲しいな、と眺めていたところで。

「うわ、すっごいもこもこ! このクッションいいなぁ!」

 聞き覚えのある声が耳に届いた。まさかこんなところで聞くことになるとは思っていなかった声でもある。お互い塾にいる間だけのつきあいであり、プライヴェートで連絡を取り合うこともない。外で会うだなんて一体どんな偶然だろう。
 出雲は棚の端からちらり、と顔をのぞかせ、声のしたほうを伺った。できれば向こうには知られずに終わりたい。なんとなくそう思っての行動だったのだが、目に入った光景に思わずぎょっとする。
 服装の雰囲気がいつもと異なっているため一見ではわかりづらいが、視線の先には確かに声の主、奥村燐がいた。けれどその背後にもうひとり、よく知った人物がいるのである。

「買ってもクロに取られちゃうと思うよ」

 笑いながらそう言ったのは、燐の双子の弟、なのだけれど。

(なによ、あれ……っ)

 彼女が目を見張ったのは、双子の立ち位置に驚いたせいだ。柔らかなクッションを抱いてご満悦な兄の後ろに、背の高い弟がいる。半身ほど左にずれて立つ雪男は、ごく自然な様子で兄の腰を抱いているのである。完全に彼氏彼女のポジションだ。どう考えても男の友達同士が取る姿勢ではなく、ましてや兄弟などには決して見えない。双子として仲がいいのか悪いのか、塾にいるときの様子だけでは判別しかねていたが、この状態の二人を前に「仲の悪い兄弟ですね」だなんてとてもではないがいえるはずもない。そもそも兄弟という関係自体が認識できないのだから。

(ていうかくっつきすぎでしょ!)

 しかも公衆の面前で。
 堂々としていればいいという問題ではないし、双子だから許されるというものでもない。けれど張本人たちはまるで気にしたそぶりも見せず、きゃっきゃと楽しそうに会話をしながら雑貨を物色しているようだった。見ているものが出雲と同じ、ふわもこウサさんシリーズ雑貨なのがまたあざとい。

「クロには一個クッションあるじゃん。これ抱っこして寝たくねぇ?」
「僕にはもう抱き枕があるから要らないよ」
「え、お前何か持ってたっけ?」
「うん、ここに」

 ちょっと寝相悪いけど温かいし僕の腕にぴったりなんだよね、という雪男の言葉を最後まで聞く前に出雲はその場を逃げ出した。のぞきは良くない、盗み聞きだなんてもってのほか、と思ったわけではない。単純にいたたまれなくなったのである。ふわもこウサさん雑貨が買えなかったのは残念だが、あれはまた次の機会にゲットしよう。とりあえず、店内の客の視線を一心に浴びながらも我関せずいちゃいちゃしている双子と知り合いだとは、絶対にばれたくなかった。


**  **


 勝呂竜士の証言。

 参考書が欲しかった。あとは何か、暇が潰せるような活字でも見つけられたらな、という気持ちで何のきなく入った書店で、見知った双子を発見してしまった。ふたりともがイメージとは違う服であったためすぐにはわからなかったけれど、兄のほうのよく通る声を耳にし、ああやっぱり奥村たちだったか、と思ったのだ。
 本を読むということに縁のなさそうな兄のほうだったが、なにやら一冊抱えているようだ。取り出した財布をチェックし眉間にしわを寄せてむむむ、と唸っている。残高と今月の残りの日数、本の代金を少ない脳内で懸命に計算しているのだろう。表情や仕草から見るに、買えないことはないが、買うと今後がきびしくなる、といったところか。けれど本は諦めにくいようで、名残惜しげに手元を見下ろしては顔を歪めている。大判の本、雑誌か何かのようだ。マンガ雑誌だろうか。
 他意はなかった、ちょっと興味があっただけだ。ちょうど自分もそちら側に用事があるのだ、と言い訳をしつつ、燐の視界には入らないよう近づいてみたのが悪かった、のかもしれない。

「どうしたの、おもしろい顔して」

 自分の買い物は終えているらしく、本屋の紙袋を持った雪男が兄に声をかける。ちらりと抱えられた雑誌を見やり、同じく彼の手にある財布へ視線を向けた。くすり、と浮かべられた苦笑はきっと、彼の兄専用のものだろう。少なくとも勝呂は塾や学校であんな顔をしている雪男を見たことがない。

「いくら?」
「え、あ、これ? んと、七百円」
「じゃあ五百円出してあげる」
「や、いいよ、ないわけじゃねぇから」
「うんでもそれ、僕のためでしょ?」

 にこにこと、笑いながら財布から小銭を取り出す雪男は、己の言葉をかけらも疑っていないようだ。そこでようやく燐が欲しがっている本の見当がついた。おそらくあれは料理本だ。雪男曰く「燐の唯一の生産的な特技」であるところの料理。数ある雑誌の中から選び、買おうかどうしようか迷うほどなのだからきっと燐の感性にぴんとくる何かがのっているに違いない。レパートリィを増やし、スキルを磨くため本、それを買うことはつまり、自分のためなのだろう、と弟は臆面もなく言ってのけている。対する兄も、「違うの?」というだめ押しの問いかけにごにょごにょと口ごもったあと「違わねぇけど」とそれを認めるのだから。

「僕の胃袋のための出資だよ。それで今までよりもっと美味しいものを作ってね」

 期待してる、と笑う雪男の顔も。
 五百円玉を握りしめて「任しとけ」と笑う燐の顔も。
 とても柔らかくてお互いに対する愛情に満ちている。
 本屋の一角で完全にふたりの世界を作ってしまっている彼らから視線を逸らせ、勝呂はそっとその場をあとにした。


**  **


 三輪子猫丸の証言。

「あれ? 子猫丸じゃん!」
「こんにちは、偶然ですね」

 そう声をかけてきたのは知り合いの双子の兄弟だった。友人と称してもいいとは思うのだが、弟の方は先生でもあるため気軽にそう称するには抵抗がある。失礼でなければそんな関係でありたい、とは思っているけれども。

「こんにちは。おふたりで買い物ですか?」

 仲良うてええですねぇ、と笑って言えば、顔を見合わせたふたりは照れたように笑っていた。兄弟のような存在はいたとはいえ、一人っ子である子猫丸にとっては休日に一緒に出かける兄弟がいるの羨ましいことである。

「クロちゃんのおみやげでも探しにきたんです?」

 そう問いかけるのはここがペットショップだからである。そう言う子猫丸はもちろん愛する猫と遊ぶための道具を物色しにきたわけであるが。

「クロ用のシャンプーを探しにきたんだよ」
「パトロールだって言ってあちこち回ってくるみたいで」

 ときどき泥だらけで戻ってくるのだ、と苦笑して雪男は言った。猫の姿をしているとはいえ百年以上も生きている存在だ、ペット扱いをとても嫌がると双子の兄の方に聞いているが風呂に入ったりすることは平気なのだろうか。水を苦手とする猫も多いため大変だろう。
 そんな子猫丸の心配を、「そこは雪男が」と隣に立つ弟を燐が見上げた。彼の弟は同じ年だとは思えないほどいろいろなことを器用にこなす印象がある。さすがですね、と感心すれば、「頭のいい子ですから」と雪男は言う。

「ペットではないなら尚更身だしなみはしっかりしようねとお願いしているだけですよ。僕たちの大切な家族ですから、汚れたままでいて病気になったら心配するよ、と」

 かの猫又のプライドをうまく利用している、ということらしい。

「へぇ。うまいこと言わはりますねぇ。クロちゃんも、そうやって心配してくれる家族がいて、幸せですね」

 また今度遊びにいかせてもろてもええですか、と言えば、双子の兄弟はよく似た笑顔を浮かべて「もちろん」「いつでもどうぞ」と答えてくれた。
 塾や学校ではあまりみない雰囲気ではあったけれど、やはり兄弟は仲良くしているほうがいいと思う。どんな相手であれ、ぎすぎすしている関係を見ているとこちらまで胃が痛くなってくるというものだ。子猫丸の知る兄弟といえば志摩家や宝生家くらいで、彼らの間に築かれているものとは少しベクトルが違うような気もするけれど、仲良しなのはいいことだ。たとえ「僕たちの大切な家族」という言い方がまるで我が子を自慢するかのように聞こえたとしても。
 仲良がよさそうだから問題はないのだ。
 たぶん。


**  **


 志摩廉造の証言。

 若干「普通」とは違う方向に足をつっこんではいるけれども志摩廉造、齢十五の高校生である。興味のある事柄は数多く、エロ方面はもちろん、身だしなみについてだってそれなりに関心は持っていた。どんなファッションが女の子受けしやすいか、ということが主題ではあるが、好きな服を着たいと思うし、似合う服を見つけたいとも思う。幼なじみのうちのひとりはピアスに金髪にと派手な方向へいきつつも根がまじめであるため、志摩のような異性へのアピールとしてファッションを捕らえることはせず、もうひとりは「華美でなければいい」というレベル。(だけれども、意外にあのふたり、ファッションセンスはいい方かもしれない、と志摩は思っていた。自分に似合うもの、というものを感覚で理解しているのだ。)
 せっかくの休日、せっかくの空いた時間。寮の外に繰り出して女の子へ声をかけつつ、新しいボトムが欲しい、とショップを回っていたときのこと。

「えー……なんかちょっと女っぽくね?」
「そう? よく似合うと思うけどなぁ」

 聞き覚えのある声が二つ、そんな会話を交わしている。ボトムを手にしたままひょい、と棚の向こう側をのぞき込めば、予想通り友人ともいえる双子の兄弟がそこにいた。いつも顔を合わせるのは学校や塾ばかりであるため、私服姿の兄弟を見る機会はとても少ない。一瞬それと分かりづらかったが、長身に眼鏡、緑の瞳と、八重歯につり上がった青い瞳を持つ組み合わせはそうそういないだろう。何より、あんなにいちゃこらしている双子が知り合い以外にもいるだなんて思いたくはなかった。あんなのは一組いれば十分だ。それ以上増えるのなら本気で正十字町の未来を心配しなければならなくなる。

「これとか雪男に似合いそう」
「カーディガン? 子供っぽくない?」
「可愛くていいじゃん。部屋着のカーディガンが一着欲しい、っつってたろ」

 そう言う燐が手に持っているものは、ライトブルーのニットカーディガンであった。幅広く取られた襟を外に折れるデザインで、胸元になにか小さな刺繍がしてあるようだ。柄はここからではよく見えなかったが、確かに全体的に少し子供っぽいかもしれない。
 LLみっけ、と弟の体格にあうサイズを探し出した燐が、ほら、ともう一度雪男へそのカーディガンを差し出す。

「そうだけど……僕が可愛くてもなぁ……」

 おとなしく受け取りながらそれを合わせて見る雪男を前に、「お前が可愛いと俺が嬉しいんだよ」と兄は満足そうに笑って言った。

「んー……じゃあ、さっきのグレーのパーカー、あれを兄さんが着てくれるなら僕もこれ着る。兄さんも部屋で着るパーカー、欲しがってたじゃない」
「ああ、さっきの……これか。いや、これこそ可愛すぎね?」
「兄さんが可愛いと僕が嬉しいんだよ」

 先ほどの燐と同じ言葉を臆面もなく言ってのける。燐が手にしているものはパーカーに猫の耳がついているデザインのもので、なるほど、男子高校生が着て外を歩くには抵抗を覚えるだろう。けれど「どうせ部屋でしか着ないじゃない」という弟の言葉が決め手になったようで、結局双子はそれぞれが選んだ上着を購入することにしたようだった。
 穏やかで冷静でしっかりしていて大人びた性格ではあるけれど、やはり根っからの弟気質であるようで時々子供のような顔を見せる雪男に、行動の予測不可能さや気まぐれさ、ころころと変わる表情から猫のような印象を受ける燐。それぞれに似合いそうなチョイスだとは思うし、それをお互いに選ぶあたりさすが双子、よく理解し合えていると感心もするのだけれど。

「…………どう聞いてもただのリア充やわ」

 爆発してしまえ、と呪詛を吐く志摩を責めるものはおそらくいないだろう。


**  **


 朴朔子の証言。

 親友が出かけてしましふと空いた時間に、読みかけだった本に目を通していた。そこでとても美味しそうな紅茶の入れ方が紹介されていて、これなら自分でもできそうだ、と茶葉、器具を確認。親友が帰ってきたらふたりでティータイムにでもしゃれ込もう、と思ったはいいけれども、紅茶に合うようなお菓子が手元にはなかった。現時刻は二時半過ぎ。親友が帰ってくるまでにあと一時間はありそうだ。迷った時間は一瞬。往復三十分もかからない距離にふたりがお気に入りのパン屋がある。メインはもちろんパンだけれど、そこにあるパウンドケーキも絶品で、あれならきっと紅茶のお供には最適だろう。
 そう判断し、ケーキを買いにやってきた場所で双子の兄弟に出会った。彼らもぶらぶらと買い物をしてきた帰りだそうで、途中塾の講師や同期にも会ったのだ、と兄の方が嬉しそうに話してくれる。彼女の親友もまた出かけていたから、途中どこかですれ違っているかもね、と話しながら、朴はお目当てのパウンドケーキをトレイへ乗せた。

「それ、美味いのか?」
「うん。私も出雲ちゃんもここのケーキ、大好きなの」

 しっとりとした口触りの生地で、味は何種類か用意されている。飲み物が甘いときにはさっぱりとしたプレーンのケーキがよく合うし、逆に甘さ控えめの飲み物があるときには、ドライフルーツを混ぜたものやチョコレートのパウンドケーキがよく合うのだ。
 そんな説明を聞いて「へぇ」と相づちを打った彼は「なあ雪男!」と斜め後ろに控えていた弟の名前を呼んだ。きらきらと光る瞳は期待に満ちており、ああこれからこのケーキをおねだりするんだな、と表情だけで分かる。そばで見る朴でさえ気づけるそれに双子の弟が気づかないはずもなく、苦笑を浮かべて「いいよ、どの味にする?」と雪男は優しい声音で尋ねてきた。帰る前におやつでも買って帰ろう、と立ち寄ったらしい。このパウンドケーキなら三時のおやつにぴったりだ。

「こういうのも自分で作れたらいいなぁ」
「奥村くん、お料理上手だって聞いてるよ? お菓子も練習すればできるんじゃないかな」

 勝手はかなり違うだろうけれど、本質的な作業は同じはずだ。チャレンジしてみたらどうか、と勧めれば、「やってみようかなぁ」とまんざらでもなさそうである。

「味見役なら喜んで引き受けるよ。私も出雲ちゃんも。あとたぶんしえみちゃんも」

 できあがったら食べさせてね、とねだる朴へ、「だめですよ、朴さん」と口を挟んだのは双子の弟のほうだった。

「昔から、味見役は僕って決まってるんです。そこは譲れません」

 にこにこと、笑いながら口にされる言葉は冗談のようにも聞こえるし、だからこそ彼の本音であるようにも聞こえる。あはは、と笑って、「じゃあ味見が終わったあとででいいですよ」と付け加えれば、「そうさせてもらいます」と彼は返してきた。

「何言ってんだよ、お前は。俺、これ買ってくるから!」

 子供みたいなことを言うな、とぶつぶつ文句を言っている燐だったが、その頬も耳もうっすらと赤くなっている。彼が弟の言葉に呆れつつも喜んでいる様子を、仲良しな兄弟だ、とほほえましく眺めておくことにした。深く考えたらいけない事柄だって世の中にはあるものなのだ。


**  **


 杜山しえみの証言。

 大好きなひとたちが幸せそうに笑っている。その様子を見ているだけでこちらもまた幸せな気分が満ちてくるから不思議なものだ。
 すぐに声をかけても良かったかもしれない。ふたりともと知らない仲ではないし、むしろ友達の少ないしえみにとっては仲良くさせてもらっている相手でもある。あまり出かけないしえみが外で知り合いに会うこと自体珍しく、せっかくだから挨拶くらいはしても良かっただろう。もしかしたら、「声くらいかけろよ」と燐あたりには怒られてしまうかもしれない。
 けれどなかなかそんな気分になれなかったのは、決してふたりに会いたくなかったからではなかった。大好きで大切な友人だ。休みの日に会えて嬉しくないはずがない。そんなうれしさを吹き飛ばしてしまうほど、ふたりを包む雰囲気が柔らかくて優しくて温かくて、見ているこちらまで笑顔になってしまうような、そんな空気で。
 邪魔をしてはいけないと思った。邪魔をしたくないと思った。
 お互いがお互いを一番に思い、お互いのために言葉を放ち、お互いの姿を瞳に移して、お互いのために笑顔を浮かべる。ともすればふたりだけの世界で完結してしまいそうな、危うさを秘めてはいるけれどそれでもとても幸せそうで。
 手を繋げばいいのに。
 ごく自然にそう思った。
 自分たちくらいの年齢の男兄弟が、手を繋いで外を歩くというのがどこかおかしい、というのは世間を知らないしえみでも何となく分かる。分かるけれど、そのおかしさはきっとあのふたりには当てはまらない。おかしい、と思われるかもしれないけれど、たとえそうであったとしても今のふたりが繋がっていないことが、温もりを共有していないことが不思議で仕方がなかった。
 そう思うとどうしても気になってくる。ふたりの間に割って入れない、と思ったばかりだというのに。手を繋いでないなんてきっと何かの間違いだとさえ。
 眉間にしわを寄せてむむむ、と唸った彼女は、うん、と一つ頷いたかと思えばぱたぱたとふたりの元へ駆け寄った。

「燐! 雪ちゃん!」

 同時に振り返った彼らのすぐそばで足を止め、無言のままそれぞれの右手、左手を取る。

「うん、これでよし!」

 じゃあね、と言って去っていった着物姿の少女を、双子の兄弟は呆然と見やった。展開が突然すぎて頭がついていかない。そもそも彼女は何がしたかったというのだろう。あんなに走っては転んでしまうのではないだろうか。せめてもう少し内容のある会話はできなかったものだろうか。
 ええと、とどちらからともなく顔を見合わせ、同じタイミングで視線をおろす。

「……どうするよ、これ」

 少女が持っていた桃色のリボンでくるくると巻き付けられたふたりの右手と左手。どういうつもりでこんなことをしていったのかよく分からないけれど、解く理由は正直なところ一つも見つけれられない。

「……もう少しで寮につくし、せっかくだからこのまま帰ろうか」

 弟の申し出に、兄はそうだな、とはにかんだように笑って頷いた。





ブラウザバックでお戻りください。
2015.01.12
















被害者:塾生一同(しえみちゃん除く)。