一大決意」の続き。


   決意の生み出す結果


「わぁ、可愛い!」
「兄貴、あっしにまで……!」

 バレンタインなのだからそもそもエイトがチョコレートを配る必要はまるでない。必要性の話をすれば最初からチョコレートと結びつけることさえ疑問を抱かなければならないのだが、そこはそれ。せっかくなのだから便乗してしまうほうが楽しいに決まっている。

「見た目はあれでがすが、味は普通に美味いでがすよ」

 少しずつ色味を変えたチョコレートを使って、非常にリアルに作られたハート(心臓)を食べながらヤンガスはそう口にし、「可愛いけど食べづらいわねこれ」と大きなヒヨコの顔を正面にしてゼシカが笑っている。しかし次の瞬間彼女はぱっきりとヒヨコをまっぷたつにし、さらにそれぞれ半分にわけ、「はいどーぞ」と仲間たちに配った。

「さすがゼシカ。ごーかいね?」
「あら、それを期待してくれたんでしょう? 罪悪感はみんなでわけっこよ」

 四等分されたかわいそうなヒヨコをみんなで食べて痛み分け。チョコレートを渡したうちの最後のひとりへは、「絶対にここで開けんな、部屋で開けろよ」と何度も念を押す。

「いいか、振りじゃねぇからな? 押すなよ押すなよの伝統美とかでもねぇからな!?」
「あーもう、うっせぇな、分かったっつってんだろ!」

 あんまりしつこいとここで開けてやるぞ、と怒鳴られ、エイトはぴたりと口を閉ざした。少年リーダがそこまで言うのだから、どんなにひどいチョコレートを選んできたのだろう、とほかのふたりは若干気になっていたが、彼の気持ちを汲んで深く追求はしないでおくことにした。

 ゼシカとエイトからのチョコレート配布がつつがなく(?)終わり、明日の行程のため連れだって宿の部屋へと戻る。部屋割りはいつもの通りであったため、エイトは室内に足を踏み入れると同時に「風呂入ってくる!」と浴室へ飛び込んでしまった。まるでククールから逃げるような態度である。いや実際に逃げたのだろう、常ならぬことをしたと自覚しているようだから。
 しかし残念ながらリーダの脳味噌のできはあまりよろしくなく、シャワーを浴びてよそ事を考えているうちにそのことをすっかり忘れてしまったようだ。「あまぎぃいごぉおえぇえ」と歌いながら出てきた(歌のチョイスの意味は不明である)少年は、さも当たり前のようにベッドの縁に腰を下ろしてチョコレートを食べている同室人を発見し、ずるずるとその場にしゃがみ込んでしまった。反応がおもしろいなぁ、と他人事のようにエイトを見やったあと、ククールはもう一つ、チョコレートを手にとって口に放り込む。

「美味いよ、これ」

 ワインゼリーが少し甘いそうである。かわりにチョコレートがビターで、うまく味が重なっている。
 オレの好きな味、と男はきれいな笑みを作った。
 絶対に引かないし笑わないから、とククールはそう言った。だから選んだチョコレートをそのまま寄越せ、と。
 確かに彼は引くこともなく、エイトを笑うこともなかった。
 ただ嬉しそうに、幸せそうに、そして静かに笑うのだ、「ありがとうな」と。
 もしかしたら自分は、ククールのこの笑顔が見たかったのかもしれない。
 しゃがみ込んだままその言葉を聞き、「うん」と答えたエイトの顔もまた幸せそうにほころんでいることに、本人は気づかないままでいる。





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2015.01.18
















「顔は好きなんだよ、顔はなぁ……」
と、しみじみ呟くエイトさんがいたとか、いないとか。