常に全力!」の続き。


   ギルドという場所


 新しいメンバねぇ、と髭の生えた顎をさすりながら座っている子供たちを見やる中年男がひとり。ふうん、と思案気に首を傾けた後、「で、君ら何ができんの?」と彼が尋ねた。

「斬る」
「射る」
「殴る」
「や、焼く……」

 ユーリが尋ねたときとまったく同じ返答を寄越す彼らに苦笑がこぼれる。それもうオレが聞いたから、と中年の男、レイヴンへ声をかけた。
 ボスが決めたなら異存はないけど、といつものように何を考えているのかよくつかめない笑顔を浮かべているのは、クリティア族のアクティブ美女だ。

「うちのギルド、半分が子どもになっちゃうわね」
「若さが吸収できていいんじゃねぇの」

 肉体的な老化からはどうあっても逃れられないが、精神的に年老いるのは生活する環境に左右されるとユーリは思っている。活気のある場所にいる、あるいは全力でやりたいことに取り組んでいるようなひとは、たとえ年老いていても若々しい心を持っているものだ。
 その意見に反対はしないのだろうが、「私、まだ十代よ」とジュディスはむくれていた。若さを吸収しなければならないほど年老いてない、といいたいのだろう。そりゃ失礼、と肩を竦めて謝っておく。

「でもそいつら、実力は確かだぞ。まだ荒削りだけどな」

 カロルとともに彼らの戦闘を見たばかりなのだ。その点において足手まといになることはまずないと言い切れる。

「ユーリちゃんがそう言うならまあそうなんだろうけどねぇ」

 自他ともに認める戦闘狂の男の判断だ、疑問を挟む必要もないだろう。呟いたレイヴンは「俺さまも少年が決めたことなら反対はしないわよ」とそう続ける。とりあえず、現時点でのメンバの了承を得ることができたため、正式に彼ら四人、剣での戦闘を得意とする少年レッシン、弓矢を用いて仲間をサポートする少女マリカ、拳をふるって仲間を守るジェイルに、術を操りながら司令塔をこなすクリティア族のリウのギルド凛々の明星入りが決まった。

「ジェイルはさ、ジュディの戦い方を参考にしたらおもしろいと思うぞ」

 彼ら四人がどのように戦うのかを知らないふたりへ説明をしながら、ユーリがそう声をかける。無口な少年は片眉をあげてジュディスに視線を向けただけだった。

「あら、私の動きについてこられる子なの?」

 彼女は身軽さを活かした空中戦を得意とする。一度その技に絡みとられ空へと打ち上げられたら、まともな状態で地面に足をつけるとは思わない方がいいだろう。
 ジェイル自身が彼女ほど身軽であるというわけではないが、直接拳をあわせて戦うスタイルは、アクロバティックなジュディスの動きを模すればよりおもしろくなるだろう。
 挑発的なジュディスの言葉も彼の心に火をつけたようで、「今度、見せてほしい」とそう口を開いた。「もちろんいいわよ」とジュディスのほうも楽しそうに言葉を返している。

「レッシンはまあ一応オレが剣使ってるからな、みてやれなくもない。ただオレの戦い方はあんまり参考にはなんねーと思うんだよなぁ」
「剣士としてはイレギュラーな動き多いからね、ユーリちゃんは」

 ユーリの言葉に相づちを打ったのは、騎士として剣を使っていたレイヴンだった。「しょうがねぇだろ」と鼻の頭にしわを寄せて答える。

「一緒に剣やってたやつがまっすぐにつっこんでくるバカだったもんでな」

 パワーで押し切ろうとする彼にパワーで返してもつまらない。そう思ううちに変則的な動きを身体が覚えてしまったのだ。

「基礎というか、きちんとした戦い方っつーんだったら、フレンのを見てたほうがいいかもな」

 突然出てきた知らない名前に首を傾げる子供たちへ、「彼の恋人のことよ」とジュディスが笑いながら説明していた。忙しい身であるため、ここにくることは滅多にない、とも。

「マリカはレイヴンを見てたらおもしろいと思うぞ。このおっさん、動きが奇抜だから攪乱するって意味でも勉強になる」
「ま、俺様は遊撃部隊だからね。敵を倒すよりも、敵を倒しやすくするほうが重要なのさ」

 おっさんが珍しくまともなこと言ってる、とからかうユーリへ、中年男は唇を尖らせてすねていた。

「あとはリウ、今ここにはいねぇけど、魔術大好きっ子の心当たりがあるから今度紹介してやるわ。性格はアレだけど、知識だけは腐るほど持ってるから」

 戦術だけではなく魔術の知識にも明るいリウとは話が合うだろう。
 新しくギルドに名を連ねることになった四人へ、それぞれの指標を提示してくれる。そのこと自体はありがたいのだけれど。
 黙って青年の言葉に耳を傾けていた少年少女だったが、顔を見合わせたあと、代表するかのように「あのさ」とリウが口を開いた。

「戦力的にさっさと成長しろっていうことだけなのかもしれないけどさ、なんでそこまでいろいろ教えてくれようとすんの?」

 ギルドというものはもちろんそれぞれ違う組織であり、一つ一つに異なったルールがあるものだ。けれど基本的には自由人が集まっていることが多く、自分の面倒は自分で見るというのが前提条件である。帝国に所属する騎士団のように、団員を訓練するようなシステムをもっているギルドは少ないだろう。とくに少人数であればなおさらで。
 どうしてここまでしてくれようとするのか。そんなリウの疑問に、「うちの首領の指示だ」とユーリはソファに腰を下ろしたまま黙っている少年を指さした。
 さっ、と部屋にいる皆の視線が少年首領、カロルへと集まる。最近大人たちの間でやりあうことが増えたからか、徐々に肝の据わってきた様子の彼は平然とした顔で「だって、」と口を開いた。

「君たちそのうち自分たちのギルド、持つんでしょう?」

 それならばきちんとやっていけるように技術を磨いておいた方がいい、ここにはそのための教師となりうるひとがいるのだから、と。
 当たり前のように紡がれた言葉に、「え、あれ?」と声をあげて首を傾げているのはレッシンだった。

「オレら、言ったっけ、それ」

 いつか四人でギルドを立ち上げたい。それは彼らが持つ目標の一つではある。けれど子どもだけでは立ち上げることはできても、活動が続かないのだ。
 レッシンの言葉に、「や、ボクがなんとなくそう思っただけだよ」とカロルは返す。

「君たち見てて思ったんだ。よくまとまってるなって。レッシンはさ、もともとあまり誰かの下で働くとか、そういうタイプじゃないよね? ほかの三人も、レッシンの下にはつくけど、別の誰かの下について動くってわけじゃないみたいだから」

 彼らの戦う様子、道中のやりとりを見ていてなんとなくそう思ったのだ、と少年は語る。
 自分のギルドを持ちたいって気持ちはすごくよく分かるよ、と。
 何せ少年もそれに憧れてギルドを立ち上げている。支えてくれるひとたちに恵まれたおかげで、今こうしてその夢が叶っているのだ。

「だからそのために頑張ってるひとたちこのとは応援してあげたいんだ。それまではここで一緒に戦ってくれたら嬉しい」

 ともすればほかのギルドを利用しているだけにしか見えない彼らの行動を、カロルは笑って許容する。この部屋のなかで最年少であるはずの彼が口にする、とても大人びた言葉。背伸びをしているわけではなく、本心からそう告げていることが分かる。少年らしいわね、とレイヴンが苦笑を浮かべていた。

「ごめん、オレが言ったんだ」

 そんな首領へ頭を下げたのは、四人の参謀役であるクリティア族の少年だった。今後の活動を継続させるためにも人脈は必要だ。それを得るために、どこかのギルドに所属しよう、と。もちろん最初からいつか自分たちでギルドを作りたい、と口にしてはどこのギルドにも断られると分かっていたため、その点を隠して、だ。

「まさかそこ踏まえた上で受け入れてくれるとこがあるとか、思ってなかったから……」

 騙すような形になってごめんなさい、と謝罪をする少年は確かに頭は切れるのだろう。だけれど素直さと優しさが残っているため、冷徹になりきれない。大人数を動かすような司令塔にはあまりむかなそうなタイプだな、と大人たちは分析する。あるいはそのときになったらきちんと心を切り替えられるのかもしれない。
 まあいいんじゃね? その考えの方が普通よね、とユーリとジュディスがリウへそう声をかけた。

「うちはほら、ギルドを大きくするとかってよりも、まずボスが健やかに育ってくれたらいいのよ」

 何よりもまず、このギルドを作った首領にとって居心地の良い空間であること。それが重要課題である。
 きっぱりと言い切る男へ、「あらあら」とジュディスがおもしろそうに笑って視線を向けた。

「さすがの元騎士団主席さんも、恋人には甘いのね」

 紡がれた言葉に驚いたり首を傾げたりしている四人をおいて、「ただの恋する男だもん、当然でしょ」とレイヴンは唇を尖らせる。そしてすぐさま新メンバの方へ顔を向けた。

「あ、ゆっとくけどこの子、俺様のだからね。手、出しちゃだめよ」

 隣に腰掛ける少年の肩を抱き寄せて宣言するも、腕のなかの少年はかわいそうなくらい真っ赤になって押し黙ってしまっていた。大人ほど開き直れないのかもしれない。
 にやにやと笑っている黒髪の青年と、口元に手を当てて「あらあらあらあら」と楽しそうにしているナイスバディの女性。彼らの反応からするに、男の言葉は事実なのだろう。へぇそうなのか、とどこかのんびりした声で相づちを打ったのはレッシンだった。

「じゃあオレも言っとくか。こいつ、オレんだから」

 そういって指さされた先に座っていたのは緑の髪の少年で、彼は目を見開いて驚いた顔をしている。何か言い返そうと口を開いたが言葉が出ず、あまり健康的ではない肌を真っ赤に染めて、両手で顔を覆ってしまった。もうやだ、と小さく呟く声が聞こえる。結局否定はしないらしい。

「じゃあオレも……マリカはオレのだから」

 続けられたジェイルからの言葉に、「はっ!?」と驚いて声をあげたのは当の本人で。

「え、あたし、あんたと付き合ってたっけ!?」

 どうして『オレのもの』呼ばわりされなければいけないのかが分からない。頬を染めながら、立ち上がってそう叫ぶ少女を見上げ、無口な少年がしょぼん、と眉を下げた。

  「ちょ、ちょっと、なんでそんな顔すんのよ、あたしが悪いみたいじゃない」

 やめてよね、と鼻息荒く再び腰掛けた少女へ、「マリカはジェイルが嫌いなの?」とジュディスが尋ねている。

「嫌い、じゃあない、けど……」
「あら。じゃあ好き?」
「そ、それは……」

 押し黙ってしまった彼女へ、「いいじゃない」とジュディスが顔を寄せて後押しをする。

「恋人がいるって素敵よ? うちのギルド、できあがってるひとが多いから。ねえ、つきあっちゃいなさいよ。ジェイル、良い子よ? たぶん」
「ジュディスちゃん強引ねぇ」
「さっき顔合わせたばっかりだろうが」

 呆れたようなレイヴンとユーリの言葉に重なるように、「な、何でこんな話になってるのよ!」とマリカの叫ぶ声が室内に響いた。
 




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2015.01.23
















フレユリ、レイカロ、主リウを混ぜつつ、
ジェイマリをプッシュ。