暴力表現有、注意。 接触障害 ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、少年は壊れた蓄音機のように、ただひたすら同じ言葉ばかりを繰り返していた。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。 うまく話せなくてごめんなさい、うまく笑えなくてごめんなさい、うまく生きることができなくてごめんなさい、息をしていてごめんなさい、存在していてごめんなさい、生まれてきてごめんなさい。 「圭一が悪いんだよ……?」 優しい声音でそう言うのだから、きっとその言葉は間違っていないのだろう、つまりは自分が悪いとそういうことで、だったらなおさら謝らなければならないのだ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。 「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん、な、さ……」 パン、と乾いた音が薄暗い室内に響く。遅れて頬に痛みを覚え、そのあとにようやく圭一は把握するのだ、自分が叩かれたのだ、ということを。 「ごめん、なさい、ごめんなさ、ッ……」 パンともう一度乾いた音。今度は振り上げられた手が見えたため、殴られたということはすぐに理解できた。口の中に広がる錆びた味、切れたのは唇なのかそれとも口内なのか。虚ろな視線を彷徨わせれば、頬を両手で包まれて固定された。 「圭一」 こうして名前を呼ばれた時、目を見なければ悟史は怒る。もともと圭一は他人と真正面から視線を合わせることが苦手だ。それは彼に限らず誰に対してもそうなのだが、どうしてだか悟史はそれがひどく気に入らないらしい。 『どうしてそんなに僕を怖がっているの?』 悟史を怖がっていたというわけでは決してない、むしろ悟史を含めた他の人間すべてが圭一にとっては恐怖の対象であると言った方が正しい。彼の言葉を肯定はできなかったが、すべてが違うと否定することもできず、ただ首を横に振る。 初めて悟史に殴られたのはその直後のこと、『嘘つき』と頬を叩かれた。 あまりに突然のことに頭が付いていかず、赤くなった頬を押さえて呆然と教室の机を見やる。ただ、その時の圭一はなんとなく理解、したような気がしたのだ。 ああやはり、自分はその程度の人間なのだ、と。 だから逆らわない、逆らえない。頬を叩かれようが腹を殴られようが背を蹴られようが、そうされても仕方のない人間なのだから、逆らうなど考えるはずもない。 おずおずと視線を合わせてみたが、長時間見返すことができずすぐに目を反らしてしまった。同時に悟史の眉がきつく寄り、頭を放り投げられる。勢いのまま床に倒れこめば、追いかけて伸びてきた手に髪の毛を掴まれた。 「い、っ」 痛みに呻いたのもつかの間、そのまま頭を床にたたきつけられ、ご、と鈍い音が鼓膜と脳を震わせた。ごっ、ごっ、と数度続けられ、頭の中身が激しく揺さぶられる。確かあまり衝撃を与えるのは良くないはずなのだけれど、とどこか冷静に考えたところで、ようやく悟史の手が止まった。仰向けに返され横たわった圭一の上に馬乗りになり、「ねぇ圭一」と気持ち悪いほど優しい声で名前を呼ぶ。 「僕は圭一が嫌いだからこんなことをしてるわけじゃ、ないんだよ?」 首筋に指を這わされそのままするり、と下りていく。鎖骨の中心を軽く撫で、羽織ったままの白いシャツのボタンを悟史はいやに丁寧に外していった。前合わせの肌蹴させ、現れた胸元に手のひらを当ててゆっくりと撫でられる。日に当たらないため白いままの肌に残る痣はすべて悟史に殴られたせいだ。 その一つ一つを確かめるように撫で、上半身を屈めた悟史はまた別の鬱血の痕を残そうと唇を寄せてきた。貧相で傷だらけの身体など撫でても楽しくないだろうに、と思うが、悟史がしたいというのなら圭一は止めない。きつく吸い上げ噛みつき、歯型の残る場所をねっとりと舐めてはまた別のところへ吸いつく。繰り返す間悟史の両手は執拗に圭一の肌を撫でているようだが、暴力に曝されることの多かった身体は、その優しさが理解できなかった。 「圭一、圭一、けいいち、けい、いち……」 圭一が謝罪を繰り返したかと思えば、悟史は圭一の名前をひたすらに繰り返す。 「ねぇ、圭一。分かってる? 僕は圭一が好きなんだよ、愛してるんだ」 そして今度は好き、愛してる、と甘い言葉を延々と繰り返すのだ。 「好き、大好きだよ、圭一。僕の、圭一」 赤黒く変色した肌の上を這う舌が、圭一の胸へ向かう。捉えた突起をころころと舌先で転がし突き、ちゅう、と強く吸い上げられた。そのままやや強めに歯を立てられ、「んっ」と初めて圭一が小さく呻いて反応を示す。 「……やっぱり、圭一は痛いのが好きなんだね」 顔を上げた悟史は口元を歪めてそう呟き、両の乳首をそれぞれ親指と人差し指ではさんでぎゅう、と強くつまみあげた。 「いっ、ひっ」 そのまま指先をこすり合わせるようにこねられ、細い身体がびくびくと痛みに悶える。 「いあっ! アッ!」 血が出るのではないかというほど強く先端に爪を立てられ、圭一は悲鳴を上げた。口を開けると先ほど殴られたときにできたのだろう、口端の傷が開いてぴりりとした痛みを覚える。痛い、痛い、いたい、いたい。 痛い、のに。痛くて仕方がない、のに。 「ねぇ、けいいち、」 ねっとりと囁かれる声。解放された乳首は真っ赤に腫れ、宥めるようにそこに舌が押しつけられた。 「ん、んんっ」 たった今できたばかりの小さな傷に唾液が沁み、眉を寄せて小さく呻く。顔を上げた悟史はそんな圭一の頬を優しく、撫でた。 その手つきにやはり思うのだ、分からない、と。 どうして優しく触るのかが分からない、という意味ではない。言葉通りそのまま、触れられている、ということが分からない。触覚器官がどこか壊れてしまっているのだろう。それは悟史に殴られるようになってからの話ではなく、雛見沢へ越してくるその前からのこと。根本的に人間として壊れているため、五感の一つがおかしくても不思議ではないが、圭一の身体は痛みだけをそれとして認識することができ、その他の感触はまったく拾い上げようともしない。触れられているということが分からなくもないが、それは膜を隔てたどこか遠い他人へのことであり、自分に対してではない、と圭一の脳は判断する。 苦痛。それらを与えられた時のみ、圭一は自分に対して何かがなされたと理解することができるのだ。 頬を撫でていた手がするり、と首筋へ落ちてくる。両手を首へかけ、悟史はそのまま上体を倒してきた。 「だいすき、だよ……」 体重が掛かったせいで気道が圧迫されたまま、舌を絡める深いキス。 息苦しさと痛み、そして血の味に包まれ、圭一はうっとりと目を、閉じた。 ブラウザバックでお戻りください。 2010.08.01
人間不信あるいは対人恐怖症の圭一ということでしたが、 それ以外の部分が壊れてる感がでてしまいました……。 DV要素強めにしてみましたが、どうでしょう。 SとM、変態を通り越すと病気に至ります。 リクエスト、ありがとうございました! |