補い合う


 他世界へ行くことはできずとも、回廊までならレッシンでも立ち入ることができる。ちょっと他の世界の様子を見てくる、と言いだしたリウを見送るため、時間を持て余していたこともあり、白い光の溢れるそこまで共に向かったときのこと。
 この回廊は世界と世界を結ぶ狭間にあり、どの世界からでも足を踏み入れることのできる場所。今までここでは案内人のランブル族老師と、自分たちの仲間くらいしか顔を合わせたことはなかったが、それぞれの百万世界に似たような扉があるというのなら、アトリやもう一人のマリカ、クーガのようにここを通ってやってくる者たちがいてもおかしくはない。

「あれ? なんかあそこ光ってね?」

 じゃあ行ってくるから大人しく留守番しててくれ、と言うリウの言葉をさらりと無視して、レッシンが少し奥にある扉の前を指す。光を放つということは、つまり誰かがそこを利用しているということ。

「お、じゃあ別の世界のヤツがくるってことか?」

 その説明に楽しそうな声を上げた団長は、参謀の制止も聞かずにそちらへ走り寄ってしまった。

「バカ、敵だったらどーすんだよ!」

 やってきたものが必ずしもこちらに友好的だとは限らない。慌ててレッシンを追いかけてリウもそちらへ向かえば。

「げ」
「……うわぉ」
「お前ら……」
「…………」

 現れたのは二人の男。レッシンとリウの呟きに、灰色の髪をした男が小さく口を開き、もう一人の緑の髪の男は嫌そうに眉を顰めた。

「なんつーか」

 腰に手を当てて扉の前に立つ二人をじっくりと眺めるレッシン。そこに現れたのは、姿形が自分たちに良く似た二人だったのだ。マリカとマリカ(?)のように、着ているものが若干異なるくらいで容姿はほぼ同じ。しかしどことなく顔つきは違うように見えて。

「そっちのリウは性格悪そうなつら、してんなぁ」
「そっちのリウはとぼけた顔、してんなぁ」

 レッシンともう一人の『レッシン』が同時に呟き、同時に相手の言葉を理解し、そして同時に切れた。

「んだとっ!? オレのリウを悪く言うなっ!」
「そっちこそ、お前んとこのリウに比べたら、オレんが数倍美人だろうがっ!」

 がう、と吼えたてて、腰の両脇に佩いていた刀を同時に抜く。キン、と刃の交わる音を聞きながら、リウはとりあえずもう一人の自分へ軽く会釈をしておいた。

「……互いに苦労してるみたいだな」
「まあねー、レッシンだしねー」

 やれやれ、と肩を竦めて呟いた『リウ』へ、リウもまた苦笑を浮かべてそう返したあと、「でも確かに」とリウは『リウ』の顔へ視線を向ける。

「オレの割りに、悪そうな顔、してんなー、あんた」
「あんたこそ、オレの割りに抜けたような面、してるな」

 互いの言葉にひくり、と頬を引きつらせ、あははと笑った後、同時に溜息をついた。

「非生産的すぎる、やめとこーぜ」
「同感」

 基本的には同じ頭の作りをしているのだろう、そこから先は団長二人を無視しての情報交換会。そちらの世界ではひとつの道の協会はどうなっているのか、なにを求めているのか、書とはなにか、彼らの狙いは、阻止する方法、推測を交え己の考えを交え、そして意見を交わす。

「別にナルシーなわけじゃねーけど、あんた、うちの城にこない?」

 自分がもう一人いると話が早くて助かる、とリウが言えば、『リウ』の方も同じようなことを思っていたようで、「そっちこそ、うちに来てくんねーかな」と笑った。

「したらオレも、馬鹿みたいにひと殺しまくらなくて済みそうだしなー」
「ちょっと待って、ナニソレ、あんたそんなことやってんの!?」

 驚いて声を上げれば、「だって、レッシン狙ってくる奴、一杯いるから」と『リウ』はあっけらかんと言う。

「や、そりゃあ団長だから、狙われたりもするかもしんねーけど」

 でもだからといって殺さなくても、と眉を顰めれば、「手っ取り早いだろ」と返ってきた。

「何より合理的だし」

 その人物を仕留めてしまえば、同じ人物は二度と襲ってこない。襲ってくるかも知れないという可能性に怯える必要はなくなるのだ。
 ぐ、と唇を噛んだ後、リウは大きく息を吐き出す。否定できない自分に気付いているからだ。違う世界とはいえ基本的には同じ存在なのだろう、リウにもまた『リウ』のような側面がある。それを表に出しているかいないかの違いであり、彼の言動を正面から否定はできないのだ。
 甘い、とリウ自身は自分の性格をそう思う。参謀として彼を支えるのならば、もっと非情に、それこそこの『リウ』のように自らの手を汚すことを厭わず邪魔ものを排除できたほうがいいのではないか、と。しかしそんなリウの思考を読んだかのように、「いーんだよ、あんたはそれで」と『リウ』はくつくつと笑った。

「オレの中にもあんたみたいな性格はたぶんあるんだ。オレがそれを押さえてる分、あんたがそうやってればいい」

 『リウ』だって始めから今のように歪んでいたわけではない、他者を慈しみ自分を大切にするような心を持っていたはずで失くしたわけではない。

「その分あんたがそーやって人殺しまくるって? それはそれでなんか違うだろ」

 楽しそうに笑う『リウ』へ、表情を歪めたリウがそう呟いた。

「じゃああんた、オレの代わりに邪魔もの、消してくれんの?」

 覚悟を問うかのような言葉、軽く目を伏せたリウは「それが本当にレッシンのためになるのなら」と言った。
 きっとあの優しい団長は、リウが手を汚すことを良しとしない。彼のことを心から考えるならば、リウは別の手段を取る。最終的にもうそれしか方法がない、と分かるまでは決して考えることを諦めない。

「……いいな、そのしつこさ、オレも欲しいよ」
「なんか、褒められてる気、しねーな、それ」

 顔を合わせてくすくすと笑ったあと、リウは「でも」とその笑みを引いて目を細めた。

「本当にそれしか方法がなかったら、きっと、オレも」

 手を汚すことは躊躇わないだろう。

「レッシンを守るためなら、な」

 リウの言葉に『リウ』がそう続け、こくりと小さく頷いた。
 無駄だと思っていた知識も、魔力も、そして線刻も、全ては彼のために使うと決めている。それはどこの自分も同じらしい、と。
 苦笑を浮かべたリウへ、「ところで」と『リウ』が至極真剣な表情を作っていった。

「何よりもまずオレらの精神安定のために、まだ暴れてるバカをどうにかしたいんだけど」
「あ、さんせーい。オレ今『悟りの境地』と『黙せし砂嵐』セットしてるわ」
「オレは『融解の光珠』が使える。とりあえずせーの、で行くか」
「おっけー、んじゃ行きますか」

「「せーの」」


 二人のリウの掛け声とともに、世界の狭間にダメージ量が1.5倍になった『黙せし砂嵐』と、全体ダメージ最高威力を誇る『融解の光珠』が放たれ、どちらのリウがどれだけ可愛くてエロいかを口論していた団長二人は、とりあえずその刃を収めざるを得なかった。




ブラウザバックでお戻りください。
2010.10.25
















【抜かずの】お前ら一晩で何回できる?【5発】
「オレのリウなんかな、連続で四、五回は空イきできんだぞっ!」
「オレのリウはな、イきすぎてぶっ飛んだら、自分から乗ってエロく腰ふってくれるっつの!」
「…………もう一発、叩きこんでいいかな」
「一発と言わず、もう二、三発いっとこーぜ」

リクエスト、ありがとうございました!