体温 何か用事があったのかもしれないし、ただ単に暇で仕方がなかっただけなのかもしれない。所用と言うほど大したことではなかったが、必要な資料を取りに団長部屋へ戻った際、我が物顔でベッドに眠っている侵入者を発見した。侵入者といえば語弊がある、どちらかと言えば彼もこの部屋の住人の一人、と言って良いかもしれない。 「寝てるときってみんな顔が子供みたいになるの、何でかなぁ」 呟きながら探していた本を手に取り広間へ戻ろうとして、気が変わる。 今日は取りたててあちらですることもないし、クエストの結果の連絡や協会の動きに関する知らせをまとめていただけだ。しばらくは資料を読まなければならないし、それならばここにいても問題はないだろう。 そう判断すると、リウは眠っている人物を起こさぬようゆっくりとベッドへと乗り上げた。ここまでぐっすり眠っている彼を見るのも久しぶりかも知れない。 そう思いながら、シーツの上に広がる髪をそっと手に取る。さらり、と指の間を流れていくその感触に思わず笑みが零れた。頭を撫でることのできる位置に腰を下ろし、背を壁に預ける。 「やっぱ好きだな、ジェイルの髪」 さらさらしてて手触りいい。 資料を手繰り寄せ膝の上で開きながらそう言ったところで。 「…………髪、だけか?」 突然ぱちり、と目を開けた男がいつもの低い声でそう言った。驚きのあまり目を見開いたまま声すら出せないリウを寝そべった状態で見上げ、「髪の毛だけ好きなのか」ともう一度言葉を繰り返す。 「や、そーいう、わけじゃないですけれども」 もちろん本体ごと好きに決まっているが、起きているとは思っていなかったため、返答がしどろもどろになってしまう。それでは納得できないらしい彼は、「じゃあどういうわけだ」と詳細を問うてきた。 「だから、髪だけじゃなくて、ジェイルも好きだって」 多少頬を赤く染めながらそう言い、「ていうか」とリウは言葉を続ける。 「ジェイルが好き」 その答えでようやく無口な彼は満足したらしく、「そうか」と口元を緩め、再び眠りの世界へと旅立ってしまった。 「……って、おい、なんでナチュラルに人の足、枕にしてくれちゃってんの」 広げていた資料の本を脇に避けてまで、ジェイルはリウの足へ頭を乗せて目を閉じている。また狸寝入りだろう、とそう口にしてみるが、返ってきたのは小さな寝息だけ。 「寝るの、早っ」 誰も聞いていないツッコミをかました後、リウは諦めたようにため息をつき、ベッドの上に資料を広げて目を落とすことにした。 「……何やってんだ、お前ら」 「絶賛昼寝中」 リウが団長部屋へやってきたとき、時刻は既に夕方に近かった。城内の定位置に居ない幼馴染を探していたのだろう、日が暮れたころに自室へと戻ってきた団長が呆れた声で(それでもまだ眠っているらしいジェイルを起こさぬよう小さな声で)口にし、「主にジェイルが」とリウが答える。その渦中の人物はシーツに顔を埋めて、何故かリウの左手をきゅう、と握りしめていた。、 ジェイルが寝入って四半刻もしないうちに足の痺れを覚え、已む無し、と引きぬいたら、当然のように彼の頭はベッドへと落下する。その衝撃で目覚めたジェイルは、半分ほど寝ぼけていたのだろう、懲りることなく再びリウの足を枕にしようとしてきたのだ。枕はもう勘弁してくれ、と頼んでもぐずる彼には通じず、仕方なく左手を犠牲にした。要は枕が欲しかったわけではなく、人の体温を感じたかっただけなのだ。 「うはは、ガキみてぇなことしてんなぁ」 顛末を小声で語れば、ベッドの側に立つレッシンがそう笑う。 「…………ぶっちゃけ、レッシンも似たようなことやってっからな?」 ふぅ、と息を吐き出し、ほぼ読み終えていた資料を閉じてそう返せば、きょとんとした後、「うっそだぁ」と団長は眉を顰める。 「いや、ホント、大マジ。ちなみにマリカもな」 おそらくは、とリウは思う。 彼ら三人は、本当に小さなころからずっと共に育ってきていたのだ。それこそ、同じ空間にいるのならば触れ合っているほどの近い位置で、ずっと十年以上も。だから眠るときに心を許したものの体温を感じたいと手を伸ばす。それがなければ眠ることができない、というわけではない、近くにいるのだから触れ合うのがごく自然で、当然のことだのだろう。 リウがその中に入るようになってまだ三年ほどしかたっておらず、求められることはあれど、自分が求めることはないだろうことは分かっている。それが何か問題になるかと言われればまったくならないのだが、それでもやはり、少し、寂しい。 やっぱり一緒に育ったら似ちゃうもんだねー、とちらりと顔を覗かせた物悲しさを抑え込んでそう口にしたところで、むくり、とジェイルが起き上った。 「……相変わらず唐突に起きるね、ジェイル」 おはよ、と呆れたように口にしたリウをじ、と見つめた後、寝起きでいつも以上に何を考えているのか分からない顔をしたまま。 ジェイルは、ちゅ、とリウの頬へ唇を寄せた。 「ッ!?」 何をされたのか、理解すると同時にリウは顔を赤らめて頬を抑える。仕掛けた本人はと言えば何食わぬ顔をしたまま、両手を上げ伸びをしていた。「あ!」と声を上げたのは二人を見ていたレッシン。 「ずりぃ! ジェイル、オレにも! オレにもキス!」 何故そこで悔しがるのか、その上キスをねだるのか、そしてジェイルもどうしてねだられるままレッシンの頬へキスなどしているのか。 「リウも!」 そしてどうしてリウにまでキスをしろ、と迫ってくるのか。 「レッシンの後でいいからオレにもな」 リウにはさっぱり理解できなかった。 ブラウザバックでお戻りください。 2010.10.18
【旦那不在】オレとお前と団長と【嫁二人】 メインカプではないのですが、折角リクエストいただいたので、 書かせていただきました、ジェイリウのほのぼの。 団長が絡まってくるのは仕様です。 リクエスト、ありがとうございました! |