「こんな怪しい湖、なおさら近づきたくねぇだろ」

 ため息をついていえば、赤いマントの僧侶も「確かに」と腕を組んで頷いた。

「でも、森から出ることもできねぇんだぞ? これ、詰んでね?」

 湖を探索すれば、何か事態は動き出すのかもしれない。しかしその先に広がる未来が最悪なものではないという保証もない。

「森の木の実、いくつか食ってみたけど、今んとこ平気じゃん。食うもんはある。水もある。とりあえず生きてはいけるんだ。だったらあとは根気比べだろ」

 にやりと笑って言ったエイトを見下ろし、ククールは呆れたように肩を竦める。

「そりゃいったい誰との勝負だ? 神様か?」

 本来なら神に仕える職についているはずなのだが、この色男は神の存在を信じていない。魔物がいるのだから神くらいいてもいいとエイトは思う。ただその神様はきっと人間に興味がない。もし少しでも情を傾けてくれているのならば、いろいろなひとにとってもっと生きやすい世界になっていてもいいではないか。
 僧侶からの問いかけに、いいや、と勇者は首を横に振った。

「この場合、プレイヤとか読者とかだな」

 プレイヤが、動かない状況に飽きて湖探索に乗り出せばエイトたちの負け、といったところか。よく分かんねぇ勝負だな、とククールが眉間にしわを寄せる。

「まあでも、湖に出たくねぇのはオレも一緒だしな」

 つきあってやるよ、と笑う僧侶へ、エイトもまた、そうこなくっちゃ、と同じように笑みを浮かべた。
 用意されていた小屋を根城に、森で採取したもので送る自給自足の日々。そのうち果実の種から食べることのできるものを栽培することに成功し、小屋の周辺に畑までできあがってきた。畑仕事に精を出し、毎日自分たちの食べる量だけ収穫する。ふたりはそんな慎ましやかな生活をのんびりと楽しんだのだった。

「……なんか忘れてるような気もするけど、まあいっか」


おわり





2019.04.01
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