コイビト (青エク:雪燐) 「いや、つーか俺ら兄弟じゃん」 恋人じゃねぇだろ、とあっさり返された言葉にショックを受けなかった、といえば嘘になる。確かに好き嫌い、付き合う付き合わないという会話をしたことはない(気がする)が、それでもハグからキス、さらにはその先までしっかりいたしているというのに。 「……じゃあ、僕が恋人を作ってもいいってこと?」 僅かに声が低くなってしまったのは仕方がないだろう。雪男の機嫌が急降下していることに気づいているのかいないのか、その言葉に兄はマンガ雑誌から顔を上げることすらせず「は? なんでそうなる」と言葉を放った。 「だって、兄さんは恋人じゃないんだろ? だったらほかに恋人作ってもいいってことじゃないか」 「いや、よくねぇよ、だめ、却下」 何言ってんのお前、とようやくこちらを見た燐が盛大に眉を顰めているが、むしろそれは雪男の方が言いたい。何で、と尋ねれば、「だってお前、俺の弟じゃん」と彼は当たり前のように言った。いや、実際にそれは事実でどこまでも当然の事柄ではあるのだけれど。 「……弟ではあるけど、恋人じゃないよね?」 「恋人じゃねぇけど、弟だろ」 どうにも押し問答を繰り広げているようで会話が噛み合わない。弟であることが恋人を作ってはいけない理由にどうしてなるのだろうか。理解できずに黙り込んだ雪男をしばらく見やったあと、身体を起こした燐がぺたぺたと足音を立てて歩み寄ってきた。眉間に皺を寄せている弟の頭へぽん、と手を置いて口を開く。 「だって俺、お前が一番だし、お前も俺が一番なんだろ」 じゃなきゃあんなことしねぇもん、と目を逸らして言う彼の頬は若干赤く染まっているようだ。 「だから、恋人作るのは駄目。兄ちゃんは許しません」 分かったか、と言いながら照れ隠しのように頭をきゅうと抱き込まれた。「あんなこと」とはつまり大っぴらにひとには言えないようなことで、それが好きなひと同士で行うことなのだということは理解してるらしい。 互いに相手を一番に想い、セックスをしていて、それで他に恋人を作ってはいけないだなんて。 そういうのをコイビトって言うんじゃないかなぁ……。 そんな疑問を抱きはしたが、口にしたところでどうにも感覚のずれた兄には伝わる気がしなかったため、とりあえず黙ったまま温かな抱擁を存分に楽しんでおいた。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.05.16
恋人じゃなくても独占欲むき出し。 |