手と手を取り合って。 (青エク:雪燐) 触れ合う、という行為は、単純だからこそ生み出されるパワーがすさまじいのだと思う。 抱きついて額を合わせ、鼻先を軽く擦り合わせて唇を重ねる。腰を抱いていた手をおろし、腕を辿って手の甲を撫でた。くるりと返される手、指を絡めきゅう、と握り合う。抱きつき、抱き締められた時とは違う安堵感。この手を離さない、と触れ合った掌全体から伝わってくるような気がして、ほう、とため息が零れた。 こてん、と弟の肩へ頬を預けるように寄りかかった燐の背を、雪男は空いたもう片方の手で緩く撫でる。柔らかな手つきのそれは、いつもならば高ぶった燐の気を宥めるためだとか、落ち着かせるためだとか、そういう意味合いがあるものだが、今は違う。多分これは促しているのだ。 大丈夫だから、と優しく叩かれる、鼓動と同じリズムのそれに絡まっていた感情の糸が解け、自分でも見えなかったものがようやく見えてきたような気がする。きゅ、と弟の手を握り、「雪男」と口を開いた。 「俺と一緒に逃げてくれ」 でなけりゃ、俺と一緒に死んでくれ。 正十字騎士團上層部より、魔神の炎を継ぐ忌み子の処刑が通達されたのが数時間前のこと。そのまま連行されるかと思いきや、「せめて最期の時間くらい差し上げましょう」と何を考えているのか分からない道化悪魔に寮へ連れ戻された。 そこに待っていたものは、燐にとって唯一なる存在。何を言えばいいのか、どんな顔をすればいいのか分からなくて、最後に一発ヤっとくべきか、と身もふたもない思考を展開しかけたところで「兄さん」と雪男に抱きつかれた。 体温を共有し、鼓動を共鳴させ、余計な感情を排除し、無意味な言葉を剃り落して、促されるまま零れた本音。 双子の弟はにっこりと、最近はとんと見ることのなかった幼い頃のままの笑みを浮かべて答えるのだ、「うん、いいよ」と。 魔神の血を継ぐ双子の兄弟は今日この日、手と手を取り合って自分たちを捕える檻からの逃亡を決意した。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.05.02
一緒だったらもうなんでもいい。 |