手料理は愛情が隠し味


(TOV:フレユリ)


「ああ、だからユーリの料理はいつも美味しいんだね」

 告げられる言葉と共に浮かべられた笑みはまるで邪気のないもので、もちろん他意などないことも分かっている。少々頑固なところがあり、そのせいで鈍く思える面も見えるが、基本的にはひとを思いやる心を持つ、優しくて素直な性格をしているのだ。
 そうと分かっていながらもちくりと刺すような、意地の悪い言葉を口にしてしまうのは、もはやこちらの性分だ。性格なのだから仕方ないと諦めてもらうほかない。

「おう、そりゃあれか、オレの料理の腕はどうでもいいってことか」

 手料理は愛情が隠し味、ユーリの作るものが美味しいのは、彼が自分を好いてくれているからだ、と。そう言って笑った幼馴染へ口端を歪めて眉を上げれば、フレンはきょとんとしたような表情でユーリを見つめた。切り分けたハンバーグを口へ運び、もぐもぐもぐと咀嚼する。こくん、と嚥下してまたすぐにハンバーグへ箸を伸ばした。その間無言で、じっとユーリを見つめたまま。

「何か言えよっ!」

 ばん、とテーブルを手で叩き、耐え切れなくなったユーリがそう叫ぶ。揺れる黒髪を青い目で追いかけ、むぐむぐむぐ、ごっくん。
 そうしてようやく口に出された言葉は、「うん、正直に言えば」というもので。脳の奥でぷちん、と何かが音を立てて切れたような気がした。わなわなと手を震わせ、だったら食うなもうお前には作らねぇ、と皿を片付ける前に「だって」と素直すぎる男は言う。

「どれだけ料理が上手くても、僕を好きじゃない君が作ってくれたものを食べたいとは思わないから」

 その逆に、料理の腕がなかったとしても、自分を好いてくれているものが作ってくれたものは、美味しいに決まっている。だからユーリの料理はいつも美味しいんだよ、ともう一度同じ言葉を繰り返し、皿の上に残っていたハンバーグ(最後の一切れ)をもぐもぐごっくん。

「…………」

 じっと見つめてくる先は、まだほとんど手を付けていないユーリの前にある皿の上。

「…………つまり、料理の腕もあって愛情たっぷり込めてやってるオレは最高の恋人だっつーことでいいか?」

 す、と幼馴染の前へハンバーグの皿を押しやりながら嫌味を込めてそう言ってみれば、「うん、知ってる」と少しずれた答えを真顔のまま寄越され、腹を立てるのも馬鹿らしくなってしまった。




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2012.03.05
















とにかくハンバーグを食べたいフレンさん。