触れていると安心する (DQ8:クク主) 「……何やってんだ、お前」 「コアラごっこ」 日暮れまでに次の町へたどり着くことが叶わず、仕方なく野営を行っていたときのこと。食事も片づけも済み、あとはいつも通り順番に見張りを交代しながら休もうか、という頃、焚火を前に座っていたククールの背後から、エイトがぺっとりと抱きついてきた。馬車を引く白馬のお姫様とモンスタ姿の国王はすでに眠りについていたが、他の仲間ふたりはまだ目の前にいる状態で、当然エイトの行為に色気だとかそういったものはまるで感じられない。 「目的が分からない行為は止めなさい」 「…………」 そう注意をしてみるが、返事はない。振り返っても茶色の頭が見えるだけで、その顔は拝めなかった。助けを求めるように右隣のお嬢様へ視線を向けてみる。 「何やってんだ、こいつ」 そう尋ねてみれば、しげしげと背中にへばりつく少年を見やったあと、若干残念そうな表情を浮かべて「……コアラごっこ、じゃないの」と彼女は言った。つまりただくっついているだけなのだろう。 「コアラっつーか、猿の親子みてぇな……」 ぼそり、そう呟くのは、薪を手の中で遊ばせていた元山賊。基本的に年下の兄貴分には献身的な言動を取ることが多いが、心の中に浮かんだことが思わず言葉になったらしい。誰が猿だ、とククールが返す前に、「あ、それ私も思った」とゼシカが笑いながら口にする。 はぁ、とため息をついて、「おい、猿って言われてんぞ」と小さく背中を揺さぶる。 「…………」 「おいエイト」 何か答えろ、ともう一度身体を揺らし、腹の前で組まれた少年の手を叩いてみた。しかしそれにも無反応で。 「…………あの、もしかしてこのバカ、寝てやしませんかね」 なんとなく、背中に当たる吐息からそんな気がして、恐る恐るゼシカに問いかけてみれば、スカートの土埃を払いながら立ち上がった彼女は、ククールの背後を覗き込んだ。そして言うのだ、「残念ながら手遅れですね」と。 「ゼシカの姉ちゃん、末期の患者前にした医者みてぇな」 笑いながらそう突っ込みを入れたヤンガスへ、「似たようなものでしょ」と彼女も笑みを浮かべて返す。そうしてゼシカが引っ張りだしてきたものはふたり分の毛布で。 「……このまま寝ろ、と」 「だってその子、起こせるの?」 野営の際の見張り番はまずゼシカからだ。男たち三人は彼女のあとに交代するため、左隣のヤンガスも既に眠る体勢に入りつつある。はぁ、と大きなため息をついて毛布を受け取り、もそもそとそれを掛けていればぐい、と重心が右に傾いた。 「う、ぉっ!?」 引っ張られるままにどさり、と地面に倒れ込む。原因は考えるまでもない、背後に小猿よろしく引っ付いている少年だ。身体ごと傾けられては抗う術もない。どうやら座ったままではなく、横になりたかったらしい。 「……痛ぇよ、あほ」 起き上がって殴るだけの気力はもはやない。文句だけ呟いてもうそのまま寝てしまおうと目を閉じかけたところで耳に届いた小さな呟き。 言動がぶっ飛んだお騒がせ少年は、あまり知られてはいないが大空が苦手だ。憎んでいると言ってもいい。仕方なく野営をする場合は、ざわつく心を抑え込んで我慢を重ねて眠りにつく。 そんな複雑なリーダはようやく、少しだけ。 他人に対し甘える、ということを覚えたようだ。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.03.14
最近、ごっこ遊びがブームらしいです、エイトさんのなかで。 |