一歩分の距離を縮めて。


(幻水TK:主リウ)


 人懐っこそうな笑顔と態度に見失いがちではあるが、種族的に人間ではなかったらしい軍師は実のところ警戒心が強く、野生動物のような性格をしている、とそう思っていた。ヘタレ代表、と言われるだけあり凶暴性があるわけではないが、僅かな物音でも警戒して身を潜め、下手をすればもう二度と姿を見せてくれないような、用心深い獣。
 体力や腕力がある方ではないが、細い身体はしなやかに動き、彼が跳ねる度に若草色の髪も緩やかに揺れる。

「あー……あれ、なんつったっけ、ほら、なんか、動物がさ、隠れるやつ」

 唐突過ぎる呟きに眉を顰めながらも「擬態とかそういうこと?」と答えてくれるのは、もちろんレッシンの頭脳と呼べる彼だ。

「いや、ほら、隠れるのに周りに似た色にするとかって」
「んー、保護色?」

 リウの答えにそれだ、と指を鳴らす。
 そう、保護色だ。
 きっと、彼のその柔らかな髪は深い森の奥で育った彼が、周囲の獣に存在を悟られぬように身を潜めるための保護色なのだ。
 それが一体どうしたのだ、とますます首を傾げたリウを見やり、口元を歪める。
 この臆病で警戒心の強い獣に、ようやくここまで近づくことができた。流されやすい性格の彼のこと、強引に迫って捕えてしまうこともできたかもしれない。けれど、できればこの獣にはレッシン自らの手で餌を与えたい、とそう思うのだ。無理やりにそうするのではない、彼の方から乞うてくるほどに懐かせたい、と。
 そのためにゆっくりと狭めていた獣との間の距離。
 そろそろもう一歩分の距離を縮めても良い頃合いかもしれない。




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2012.05.04
















リウたん、逃げてー(棒読み)

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