恋してると大声で叫びたい。 (DQ8:クク主) 「なぁ、俺にやらせて?」 その申し出は唐突で、ククールはきょとんとしたまま思わず「何を」と返してしまった。 宿の隣にあった食堂で夕食を終え、部屋へ戻ったのが一時間ほど前のこと。先に向かわせたエイトに続いて、シャワールームで汗を流してきたところだ。タオルで拭っていた銀の髪を指さし「それ」とエイトは言う。 「たまにククールもやってくれんじゃん」 俺もやってみたい、と差し出された両手はタオルを寄越せ、という意味だろう。一体どんな思考の結果至った思いつきなのか皆目見当もつかないが、正直なところ全力で遠慮したい気持ちでいっぱいである。なぜなら、そう口にしている人物は誰であろう、常に斜め四十五度上を飛んでいる傍迷惑な少年なのだ。素直に頭を差し出したところで、弄って遊ばれて飽きられるのがオチだろう。 しかし要らないと突っぱねて、それをエイトが聞き入れてくれるかどうかは分からない。駄々をこね、拗ねる子供をなだめる手間と、髪を弄られる不安。どちらがより面倒くさいだろうかという天秤は、若干の迷いを見せた後かたん、と前者の乗った皿に比重を置いた。寝るまでぶちぶちと拗ね続けられるよりは、適当に遊ばせたあと自分で髪を整えた方が早いだろう。じゃあ頼む、とタオルを放り投げれば、何がそんなに楽しいのか、「ここ、ここ座れ」と素足でたんたんたん、と床を蹴った。 ベッドの縁に座ったエイトの足の間に入り込んで腰を下ろす。尻が冷たい、と不満を口にすれば、これでも敷いとけ、と枕を落とされた。 「枕に座るな、って話、なかったっけ?」 「知らねぇ。お前が疑問系なことを俺が知ってるわけがねぇだろ」 きっぱりと言い切られた言葉もどうかと思うが、思い出すのも面倒くさくて素直にそれを敷いておく。どうせエイトが使う枕だ、つぶれたところでククールには影響はない。 ベッドの縁に背を預ければ、ふわり、と頭の上に乗せられた白いタオル。さて、どんな乱暴な手つきでかき回されるだろうか、と身構えていたが、触れてきたエイトの手は意外なほど優しく拍子抜けしてしまった。 緩くかき混ぜてはすくい上げた髪の束をタオルで挟んで水分を吸い取る。まるでずっと頭を撫でられているかのようで、ぽんぽん、と手を打ちつけるそのリズムがいやに心地よく耳に響いた。乾かすというよりも、本当にただ拭っているだけのような手つき。はっきり言えばククール自身、エイトの髪を乾かしてやるとき、ここまで丁寧に優しく触れたことはないだろう。 「……そんなに優しくやらなくても、そう簡単にはハゲねぇけど」 こみ上げてきた照れくささを誤魔化すように口にすれば、「毛根を過信するなよ?」と返された。 「うっせぇ、余計な世話だ」 ぺちん、とそばにあった左足を叩くと、背後であはは、と笑い声が上がる。そしてエイトは「や、でもほんと、」とエイトは楽しそうな声音で言った。 「ククールの髪、すげぇ綺麗だからさ、俺としても無くなるのは惜しいわけ」 大事にしたくなるじゃん、と続けられた言葉に喜べばいいのか、腹を立てればいいのか微妙なところだ。 「エイト、どんだけオレの髪が好きなんだよ……」 多分に呆れを含んだ言葉に、「えー、そうだなぁ」と少しだけ間を空けたあと。 「お前が思ってる以上には、だな」 そう言って、変わらず優しい手つきで髪を拭い続けるものだから、とっさになんと返せば良いのかわからなくなってしまった。 「? ククール、耳、赤い」 「っ、風呂上がり、だからだろ」 向き合った状態でなくて本当に良かった。今きっと自分は目も当てられぬほど間の抜けた顔をしているだろう。 口元を押さえ込んではぁ、と俯く。「あ、ばか、動くな」と背後から声が上がったが、しばらく震える心は持ち直せそうもなかった。 こちらの言う言葉を半分も理解できていないのではないか、と思うことがあるほど欠陥のある少年は、時々思いも寄らない殺し文句を口にする。彼が全く意図していない働きを示すそれに毎度打ちのめされ、そうして思うのだ、やはり自分はこのどうしようもない少年が好きなのだ、と。 恋してると大声で叫びたい。 そう口にすれば、この少年は笑うだろうか。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.03.25
きょとんとしたあと、「じゃあ俺も叫んどく」つって、 「変してる!」って叫んで、「……まあ間違ってはねぇな」ってなる。 リクエスト、ありがとうございました! |