お揃いの小物は小さなときめき配達人。


(TOV:フレユリ)


 桃色の髪を揺らす姫が「あれ?」と小さな声を上げて首を傾げる。頬を抑えた彼女の視線の先には一本のナイフ。柄の部分までも銀色の金属でできたそれは、一見何の変哲もない普通のナイフであるように見えるが。

「わたし、このナイフどこかで見た覚えが……」

 呟く彼女へ、「店とかじゃないの」とリタが興味なさそうに返す。いえそういうところじゃなくてもっと、と逆方向に頭を傾けたエステリーゼの前でひょい、とそれを取り上げる人物がひとり。

「ユーリ」
「そりゃたぶんあれだ、フレンのとこだろ」

 確かあいつも同じもの持ってる、と軽く刃を拭って小さなケースに収めた様子を見るに、どうやらそれは彼のものだったらしい。その言葉に「ああ、そうかもしれません」とエステリーゼも納得したように頷いた。

「……何、友達同士で同じもの持ってんの?」
「二本セットで安かったんだよ。二本も要らねぇし、もう一個あいつにやった」

 ちょうど掌サイズのナイフは何かと役に立つことが多い。手に入れたのはずいぶん昔だが、意外に丈夫なため愛用してきたものだ。リタの疑問にそう答え、くるりと手の内でナイフを弄べば「素敵です」という賛辞が耳に届く。今の話の一体どこに彼女を惹きつける要素があったというのだろうか。
 眉を顰めて見やれば、さらに脱力するような言葉を続けられてしまった。





「『お揃いで仲良しですね』だってさ」

 心地よい疲労感に全身を浸したまま、ふと思い出した先日の出来事を語れば、そう言った時の皇女の表情がありありと想像できたのだろう。フレンは「エステリーゼさまらしいね」と苦笑を浮かべる。さらりと乾いたシーツを夜気に晒されていたユーリの肩まで引き上げた後、そのナイフなら、と男は言葉を続けた。

「まだ僕も使ってるよ」

 そう言って顎をしゃくる先にはフレンが普段使っている机があった。そちらまで光が届かずよく見えなかったが、「ペン立てにあるはず」とフレンは言う。

「手ごろなサイズだし丈夫だよね、あれ」

 どうやらユーリと同じような理由で使い続けていたらしい。しかし「そうか、ユーリに貰ったやつだったっけ」とその入手方法を忘れてしまっていたようで、要するにその程度のものであるということだ。ユーリもまたエステリーゼに指摘されなければ、それが揃いのものであったことを思い出さなかっただろう。

「まあお揃いはともかく、『仲良し』なのはその通りなんじゃないかな」

 ね、と笑みを浮かべたまま手を伸ばし、横たわるユーリの前髪をさらりと流す。現れた額へキスを落とし、「少し寝たら」とそう促した。言われなくても、とかさついた唇へ自分の唇を押し当ててぽふり、と枕へ頭を埋める。広がった髪の毛を纏め、緩く撫でてくるその手つきが気持ちよくていつの間にか眠りについていた。


 エステリーゼに言われるまで気にしてさえいなかったけれど、そうと認識してしまえばなるほど、なかなか悪くないのかもしれない。

 眠るフレンを置いてベッドを抜け出し、サイドテーブルに並べる揃いのナイフ。
 外で使うことの多いユーリのものより、室内で使っているフレンのものの方が全体的に綺麗であるため間違えることはない。鈍く光るそれを取り、くるりと手の中で弄ぶ。その重さはもちろんユーリが使っているものと大差ないはずだけれど、利き手が違うせいかやはりどこか違和感を覚える。しかしそれを感じとることができるのはきっと自分たちだけなのだろう。
 同じものであったはずなのに今やもはや別物にさえ見えるその柄へ、軽く唇を押し当てて我に返った。

 からん、と小さな音を立ててサイドテーブルの、自分のナイフの隣へそれを並べ置き、再びベッドの中へと潜り込む。少しだけ冷えた身体を隣の男へすり寄せてみれば、当然とばかりに腰に腕が回された。
 起きているのかどうかの確認は敢えてしない、もし起きていて今の行為を見られでもしていたらと思えば、とてもではないが顔を見ることは出来そうもなかった。
 今さらのように照ってきた頬を隠すように顔を埋め、小さく息を吐き出す。

 これからはあのナイフももう少し丁寧に扱うことにしよう。




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2012.03.15
















乙女要素多め(当社比)

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