そっと呟く本音の後に大きな誤魔化し。 (九龍:皆主) 葉佩九龍という男は、何にでも言葉にして求めたがった。音として耳に届いてようやく脳がそれと認識するようで、独り言も多いタイプだ。もちろんすべてがすべてそうでなければならないわけでもなく、頭の回転が悪い方でもないため言葉がなくとも空気を読んで人の気持ちを察することもできる。しかしそれでも「やっぱり言ってもらえたほうがいいよね」ということらしく。 「ねぇ甲ちゃん、おれのこと好き?」 こんな質問を平然と繰り出すことのできる、恋人としては大変に面倒くさいタイプである。 さすがにそれが毎日続いていれば、どれだけ葉佩のことを好きでいたとしても嫌気がさしていたかもしれない。そのあたりの空気を読むのは本当にうまいのだ。 葉佩は皆守が忘れたころに、不意に口を開いて尋ねてくる。 自分のことをまだ好きでいてくれているか、と。 ああ、だとか、そうだな、だとか、肯定の言葉さえ返せば良いようで、一言でも何か言えば「そっか」と口元を緩めるのだ。おれも好きだよ、と続けるその笑顔は心の底から安堵しているときに浮かべる表情で、常に明るく賑やかな雰囲気を持つ葉佩にしては珍しい顔の部類に入ると思う。 ふざけ半分で聞いているのだとか、皆守を試すためだけの問いかけだというわけではない。遺跡の中では恐怖すら楽しんでしまえる男が抱く不安。 悔しいことに、少しでもそれが解消されれば良い、と思う程度にはあの男に惚れている。 「ねぇ、甲ちゃん。おれのこと、好き?」 いつもの問いかけに、視線をそちらに向けることもせずに「ああ」と答えを返した。 しかしいつもと異なっていたのは、葉佩の「そっか」という呟きの前に「好きだぞ」と皆守の言葉が続いたことで、おそらくは初めてのことだろう、と自分でも思う。 「……」 「…………」 僅かな沈黙が双方の間に流れた後、「……ねえ、甲ちゃん」と葉佩は皆守を呼んだ。 「それはおれに対しての言葉なのかな」 にこっ、と邪気のなさそうな笑みを浮かべて放たれた言葉に、皆守は広げていた雑誌をぱたむと閉じて手を伸ばす。 「当たり前だろう?」 お前以外に誰がいるってんだ。 引き寄せた男の耳に、少しだけ夜のベッドの上で発する色を含ませた声を吹き込む。だったら良いけど、と誘いに乗って首に腕を絡めてきた葉佩の腰を抱き、その視界から外れるように雑誌をベッドの下へと追いやった。 おそらくこの男のことだ、先ほどまで皆守の見ていたページが『カレー特集』だったことに気がついているに違いない。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.03.22
どちらを「誤魔化し」と取るかは敢えて触れず。 リクエストありがとうございました。 |