自分、努力してます。


(DQ8:クク主)


 その努力が間違った方向にしか働いてない気がするのはお兄さんの気のせいかな目の錯覚かな思い違いかな泣いても良いですか、と捲し立てられ、とりあえずノリで「だが断る!」と口にすれば握りしめられた拳を振り下ろされた。そして「良いから今すぐ服を着ろ」と続けられる。
 殴られた箇所を両手で押さえ痛みに震えるエイトが今現在身に着けているものは、フリルに縁どられた真っ白いエプロンのみ。いわゆる裸エプロン状態である。男でこれが嫌いなものはいないだろうという独断と偏見によるチョイスだったのだが、どうにも真っ赤な服の僧侶は気に入らなかったらしい。
 宿にて同室になる機会の多い男と、同性ではあるが身体を繋げる間柄であり、恋人であるかどうかは分からないがそれに近い状態だと認識している。役割的にエイトが彼女、夫婦で言えば奥さんお嫁さんに当たるわけで、それならそれなりにサービスしてしかるべきだろう、と思った。たとえ恋人であっても夫婦であっても、その名前の上に胡坐をかいて座っていてはいけないらしい。「旦那にいつまでも『女』として見てもらいたいもの」とそう言っていた。

「…………誰が」
「八百屋の若奥さん」

 答えながら纏っていたエプロンを脱ぎ捨て、いつも着ている青いチュニックへもそもそと首を通す。「ちょうどいいと思ったんだけどなぁ」と呟けば、大変に冷めた視線を向けられ、「何が」と問いを放たれた。完全無視ができないあたり、この男もずいぶんひとが良いと思う。

「マンネリ防止に」
 いつも同じじゃ飽きられちゃうわよって。

 同じく八百屋の女将から言われた言葉。彼女はまさか相手が同性で、しかもエイトが女役をこなしているとは思っていなかっただろうが、そう言われたからにはなんらかの対応策を取っておかねばなるまい、とチャレンジ魂に火がついた。

「……芸人魂の間違いだろ」

 そう呟きながらエイトが脱いだ白いエプロンを摘まみあげ、「お前さ」と興味なさそうな視線を向けてくる。

「オレに飽きられたら困るわけ?」

 真っ青な瞳に見下ろされ、相変わらずきれーな色してんなぁ、と思いながら首を傾ける。
 八百屋の女将が良い人はいるのか聞いてきたため、近い相手ならいると答え、そこからどうしてだか恋愛指南にいたり、付き合っていても飽きられない努力は怠ってはだめだ、と怒られた。だから努力をしよう、と思ったのだけれど。「ええと、」と逆方向に首を傾け、「そういうことになる、のかな?」と口にする。飽きられることを避けるために努力をしようと思った、それはつまり飽きられたくない、ということなのだろうか。
 エイトの返答に再びはぁ、と大きく息を吐き出したあと、ククールは手にしていた白いエプロンをこちらへ向けて放り投げた。顔面で受け止めたそれを払いのけたところで、追いかけるように伸びてきた手に顎を捕えられる。

「くくー、ッ、」

 名を呼ぶ前にしっとりと唇を重ねられ、呼吸ごとすべて奪われた。ぐちゅぐちゅと、唾液を掻き混ぜる音さえ響くほどの激しいそれに、脳の中も同時に滅茶苦茶に掻き回される。

「っ、ふっ、は、ぁ……っ」

 ようやく解放された唇は熱を持ってじんじんと疼いていた。いきなりどうしたのだ、と問いかけるだけの余裕もない。舌を滑らせ、軽くエイトの頬に歯を立てた後「だったら、」とククールは低く笑いながら言う。

「オレも努力、しねぇとな?」

 子供は飽きっぽいしな、と嘯いた男が浮かべる表情はどうにも、ひどく物騒なものに見えた。




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2012.03.06
















何する気だ。