どうすれば恋人に勝てるだろう。 (TOV:フレユリ) 勝ち負けの問題ではないし、第一勝敗の基準が分からないと自分でも思う。けれど、ことあるごとに「負けた」と思ってしまうし、それが悔しくて、できれば勝ちたいという気持ちはある。 それが例えば剣の腕だとか、腕力だとか持久力だとか、知識面に関することだとか、努力すればどうにかなる(可能性のある)ものだったなら、それなりに対策も取れただろう。結果、結局敵うことができずとも、そう努力したことは自分の中に残るはずだ。 けれど、どう考えてもユーリが恋人である男に対し「負けた」と感じる事柄は鍛練を積めばどうにかなるものではなくて、つまりは「惚れた方が負け」ということでしかないのかもしれない。 フレンの甘ったれたおねだりに「負けて」、結局朝方までベッドの中で付き合ってしまった。これ以上は無理だ、といつも思う、いつも口にする、けれど欲張りな男はいつも「その先」を求め、甘えてねだるのだ。それに勝てた試しが、ユーリの記憶にある限りでは一度もない気がする。 どうすれば勝てるだろう、といつも思っている。できれば勝ちたいと常に願っている。 このまま一生負けとおしになるのははっきりいって面白くない、けれど、惚れた方が負けであるなら、たぶん一生、この男に勝てる日は来ない。 本当に面白くない、と思いながら、どうせ負けるならとことんまで負けてやろう、という方向に思考が走ったのはおそらく夢と現実の間をうろうろしていたせいだろう。ぼんやりとした頭のまま、目の前にあった唇へ吸い付き、小さく「好き」とそう負けておいた。 無理を強いたせいで気だるそうだった恋人が突然可愛いキスをしてきたかと思えば、子供っぽい告白まで寄越してきた。一体どうしたのだろう、と悩む間もなくそのままことん、と眠りに落ちてしまったユーリを前に、顔を赤くして己の口を押える。ようやく収まったかと思った体内の熱が再び上がりそうになるのを何とか堪え、唇を噛んだ。 「……僕は、一生君に勝てる気がしないよ」 小さくそう呟き、前髪を避けて現れた額に軽く唇を落とす。 これが勝者に対する祝福のキスだと、きっとユーリは知らないままだろう。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.04.19
互いに「勝ち」を知らないまま。 リクエストありがとうございました! |