恋人によるからかい。


(TOV:フレユリ)


「えっ!? ユーリって付き合ってる方、いるんですかっ!?」

 町にある騎士団の屯所へ軽く顔を出したあと、今行動をともにしているパーティメンバの元へ戻れば、そんな素っ頓狂な声が耳に届いた。明日以降の予定でも話していたのか、本来男性陣に、と当てられた部屋に女性陣も含めたメンバみなが揃っている。戻ってきたフレンに気づいたカロルが「あ、お帰り!」と笑顔を浮かべた。
 ただいま、とそれに答える前に、「フレンは知ってました?」とエステリーゼに質問を向けられる。

「ユーリに恋人がいるそうなんですけど」

 本当ですか、と首を傾げられ、渦中の人物へ視線を向ければ彼は悪びれた様子も見せずにひょい、と肩を竦めてみせた。口の端がひくり、と引きつりそうになるのをなんとか押さえ込んで「ええ、まあ」と言葉を濁して答える。
 彼に恋人という存在がいるのだとすれば、何を隠そうそれはフレン自身である。男同士ではあるが小さな頃から側におり、誰よりも大切に想い合い、気がつけば一線を越えていた。騎士団とギルドと、行く道が分かれた今でもその関係は続いているが、同性間の恋愛は偏見を持たれることも少なくなく、またふたりともそういったことを言い触らすタイプではなかったため自然と誰にも知られない関係となっていた。
 それがどうして突然こんな話題に。

(たぶんエステリーゼさまあたりが聞いてきたんだろうけれど)

 それにしても、いつものユーリならば恋人がいるのかどうかという質問に否定も肯定もみせず、適当に交わしているだろうに。いったいどういう心境の変化なのだろう。
 フレンからはあまり聞き出せそうもない、と判断したのか、今度は「どういう方なんですか?」と直接ユーリへ問いかけている。

「私も興味あるわ。いつもふらふらしてるあなたを射止めたひとって」
「ふらふらって、失礼だな。こう見えてもオレは結構一途なんだよ」

 なぁ、と相づちを求められても困る。はは、と乾いた笑いを返したフレンを見て、ユーリは楽しそうに笑みを浮かべていた。

「一途ってことは、その方とは長いんですか?」
「まあな。まじでガキの頃からだし」
「じゃああなたも知ってるひとってことね」

 ジュディスに視線を向けられ、先ほどと同じように「ええ、まあ」と答える。それ以外に答えようを見つけられなかった、とも言えた。

「だからそれで、いったいどういう方なんです?」

 具体的にそのひとの様子を聞きたいらしい、重ねられた問いかけにうーん、と首を傾げた後「一言で言えばかわいい、だな」とユーリが言った。また彼らしくない言葉の選択に、聞いていたパーティメンバみなが驚いたような表情を浮かべている。もちろんフレンも例外ではない。

「そいつ、ちょっと童顔だしな。笑った顔とかすげぇかわいいぞ」
「…………意外だわ、あんたがそういうタイプだったとか」

 ぼそり、と天才魔術師である少女が呟き、「ノロケとか言いそうもないもんね」とカロルも同意して頷きを返している。からかおうにも「惚れてんだから惚気もするだろ」と、堂々とされているためからかい甲斐もない様子だ。

「オレの作った飯食ってる顔とかな、子供みたいだし」

 性格も良い方だろうし、顔もいいしスタイルもいいし、頭もいい。料理の腕がちょっと微妙だけどな、と続けられる賛辞に「もう勘弁してちょうだい」と一番はじめに根をあげたのはレイヴンだった。

「そういう甘酸っぱい系のお話は、おっさん、胃もたれしちゃいそう」

 うんざりとした顔で言った男へ、「枯れるには早すぎるだろ」とユーリは相変わらず悪びれた様子も見せない。
 常日頃斜に構えた言動ばかりの青年がここまでストレートに言葉を口にしているのだ、それだけでもみな衝撃的だったらしく、どことなく室内の雰囲気が微妙なものになりつつある。どうしてこの空気を払拭するべきか、と悩んでいたところでようやく、やっとのことで。
 これが彼の仕返しであることに気がついた。
 そういえば先日ベッドの中で、「ユーリはあんまり好きと言ってくれない」と散々に苛めた覚えがある。
 どうやらそれを根に持っていたらしい。
 眉を顰めて恋人を睨めば、彼はにんまりと口の端を歪めてみせた。

「素敵な方なんですね」

 うふふ、と笑ったお姫様がその性格通りに天然な台詞を吐き出し、「まあな」とユーリもフレンへ視線を向けたまま答える。

「なんつっても愛してるからな」

 できればその言葉を、ふたりきりのときに聞きたかった。




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2012.05.21
















からかいどころじゃない。

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