ちょっと悔しいけれど愛しい。


(幻水TK:ジェイマリ)


「……硬い。苦い。オレの知ってるホットケーキと違う」

 ぼそぼそぼそ、と遠慮なく紡がれる言葉がそのまま真っ直ぐマリカの心に突き刺さる。側では手伝ってくれていた姉が「あらあらあら」といつもの穏やかな笑みを浮かべていた。
 家に母親がいなかったということもあり、マリカの姉、シスカは家事能力抜群だ。掃除から裁縫、料理にいたるまでほぼ完ぺきにこなしてしまう。自分のことを「お母さん」と呼ぶように強要する部分と、若干天然な部分に目を瞑りさえすれば文句なしに自慢の姉ではある。が、こういうときばかりは少し恨めしい。

「……混ぜて焼くだけ、じゃないのか」

 どうしてこうなるのか分からない、と心底不思議そうに呟く幼馴染を、キッと涙の溜まった目で睨みつける。

「うっさい!」
 大体あんたいつも無口なくせに、なんで今はそんな喋んのよっ!!

 八つ当たりも甚だしい言葉にジェイルはいつもの、何を考えているのか分からない表情のまま「少しでも参考になればと思って」としれっとのたまった。唇を噛んで「アリガトウゴザイマス」と声を絞り出す。
 切っ掛けなんて特にはない、ただそろそろ本気で料理の腕を何とかした方がいいのではないか、とそう思っただけだ。いつまでも姉に頼るわけにはいかない。彼女もちゃんと家庭を持って本物の「お母さん」になってもらいたい、と思っているのだが、それを口にしたことはない。もともと壊滅的な腕だということは自覚していた、だからせめて簡単なところから、と思いチャレンジしていたのだけれど。

「食えなくはないけど、ひとの食いもんじゃないと思う」

 ぐさぐさと、よくもまあここまで容赦のない言葉を吐いてくれるものだ。そんなことは作ったマリカが一番よく分かっている。ああもう本当に泣きそうだ、と俯いたところで、「だから、」とジェイルは更に続けた。

「オレ以外には食わせない方が良い」

 がたん、と同時に椅子から立ち上がる音。どういう意味だ、と顔を上げ、机の上に残された皿を唖然と見やる。あれほど文句を言っていたにもかかわらず、そこにあったホットケーキ(になり損ねた物体X)は跡形もなく消えていたのだ。
 ごちそうさま、と去っていく幼馴染の背中へ「見てなさい!」と捨て台詞。

「今に絶対おいしい、って言わせてみせるから!」

 それまで全部あんたに食べさせるからね、と言うマリカの方をちらり、と振り返り、「オレが死なないうちに頼む」と放たれた言葉に、空になった皿を投げつけてやろうかと思った。




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2012.05.08
















ジェイル……(´・ω・`)つ【胃薬】

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