理由不明のやきもち。 (DQ8:クク主) 絶対に先に置いて行くなよ、置いて行ったら大泣きして迎えに来るまで帰らないからな、と我ながらどうかと思うような脅し文句を同行者へ放った後、せしめた小遣いを握って向かう先は駄菓子屋である。買い出し用に渡された金銭の釣りで菓子を買ってもいい、と金庫番であるお嬢さまから許しを得た。普段自由に使う金をほとんど持たない(持たせてもらえない)エイトのために、そんな彼女が少し多めに持たせてくれたこと、そして同行者である男ができるだけ安く買い物を済ませてくれたことを知っている。普段なんだかんだとエイトを怒ることの多い頭脳労働組であるが、結局は甘いんだよな、と甘やかされている本人は思っていた。 駄菓子は昔から(といっても、兵士の職に就き自由に使える金銭を得るようになってから、だが)よく買って食べていた。お前はほんとに菓子が好きだな、と兵士仲間にも今の仲間にも言われているため、たぶんそうなのだろう。安い金額でたくさん、いろいろな種類を買えるのがいいのかもしれない。 飴やガム、グミといった小さなものから、ドーナツやパン、加えて飲み物。種類が豊富であるため、選ぶだけでも時間が掛かる。だからこそ、冒頭のように同行者へひとりで帰るな、と念を押したのだ。駄菓子を買っている間に宿へ戻られてしまい、盛大な喧嘩をしでかしたのはつい先日のこと。さすがにこの短期間で同じことを繰り返されたくはなく、ちらちらと店の外にいる男を気にしながら買い物をしていたが、目の前に並ぶ魅力的なものを前にすぐ忘れてしまった。 次にいつ買いに来れるか分からないため、可能な限り買い溜めておくつもりであったが、こういった菓子はどれだけたくさん買ってもすぐになくなってしまうのだ。菓子を入れておく箱(以前ヤンガスが買ってくれたものだ)が食べているか、あるいは小人的な何者かが勝手に持っていってるに違いない。 いやお前が食ってるだけだからな、と外にいる男に突っ込みを入れられそうなことを考えながら、いつもよりも短時間で買い物を終え(たつもりである、本人は)、紙袋を二つ抱えて店を出たところに広がっていた光景。 あ、と思った。 次に、この場合は気を利かせて先に帰るべきだろうか、と思った。 確かに待っていろ、という言葉に従ってくれてはいたが、そこにいたのは彼ひとりではなかったのだ。どちらから声をかけたのかは分からないが、男の隣に立つ同じ年齢くらいの女性。エイトの知らない顔ではあったが、仲むつまじく話している様子は単なる立ち話で終わる関係には見えない。笑みを浮かべながらある方向を指さしているため、このままそこへ(どこのことだろう)行こうか、とでも言っているのかもしれない。 先に帰られていたときと今と、どちらの方が良かっただろうか。 そう思っていたところでどさり、と鈍い音が足下で響いた。目を落とせば、左腕で抱えていた紙袋が落下し、中の菓子が地面に広がっている状態で、どうやら落としたのは自分らしい、と判断する。 うーん、と眉を顰めて首を傾げたあと。 どさり。 「何でそっちも落としてんだよっ!」 右腕で抱えていた紙袋の中身が地面に広がると同時に、罵声と拳骨が飛んできた。自分は非力だ、とよく言っているが、それはエイトやヤンガスに比べてのことであり、まったく力がないわけではない。通常一般男性が有している腕力で殴られたら基本的には痛いのだ。 落としたのではなく落ちたの、と言ってみるも、「いいや、オレは見てた」と睨みつけてくるは銀髪の僧侶。たった今まで、どこの誰とも分からない女性と話をしていたはずの男。 「一個目のは落ちたのかもしれねぇけど、二個目のはお前、自分で手を離しただろ」 落下音を耳にしてこちらへ顔を向けたら、ちょうどエイトが二つ目の荷物を落としたところが目に入ったらしい。何でそんなことすんだよ、と鼻を摘まれながら問われ、「一個落ちたついで?」と答える。どうせ拾わなければならないのなら、一つ分も二つ分も同じだろうと思ったのだが、「マジで意味が分からない」と首を横に振った後、ぴんと額を弾かれた。 「さっさと拾え。オレは早く宿に戻りたい」 待ってやった上に拾うのも手伝ってんだから何個か寄越せよ、と口にする男は、どうやらこの後宿に戻るつもりらしい。先ほどの女性はいいのだろうか、と思って視線を向ければ、彼女は背を向けて遠ざかっているところで、すでに彼らの間で別れの挨拶が済んだ後だと知った。 そっか、という呟きを耳にとめた男がなんだよ、とこちらを見上げてくる。 「んーん、何でもない」 そう答えた自分の頬がどうして緩んでいるのか、エイトにはいまいちよく分からなかった。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.04.06
駄菓子がある世界、ということにしておいていただければ。 リクエスト、ありがとうございました! |