どこまでも本気で立ち向かう。


(幻水TK:主リウ)


 荒事は苦手で、面倒事も苦手で、できれば静かに心穏やかに日々を過ごしていきたいと常々思っている。ヘタレだなんだと断じられ、情けないと思われているようではあったが、それはそれで事実であるため否定する気もない。
 腕っぷしがないというのももちろんあるが、何よりもまず度胸がないのだ。他人からの強い感情を前に、自分が押しつぶされそうになって怖い。自分がいなくなりそうで怖い。だから可能な限りはその場から逃げてしまう、逃げようとその手段を探してしまうのだけれど、もちろんそうしてばかりもいられないのは重々承知だ。
 こんな情けない自分を受け入れてくれた優しい人々。心の底から感謝の念を抱いているし、彼らのためにできることがあるなら何でもしたいという気持ちは嘘ではない。その場面ですら逃げを選択してしまうまでには落ちたくないのだ。
 そう、落ちたくはない。
 筋肉のあまりついてないひょろりとした脚でどこまで耐えられるか分からないが、それでもなんとか踏ん張っておきたいとは思っているのだけど。

「……リウ」
「………………」

 足を引こうにも背後は壁で、顔の脇に両手をついて閉じ込められているため、もう逃げ場はどこにもない。正面に少年の顔があり、見つめることもできずに視線は斜め下の床へ。
 向けられる感情は真っ直ぐで、本音を言えばリウが一番苦手とする力を持ったものだ。押し込められた気持ちが強すぎて怖い。この場から消えてしまいたいほどに怖い。
 けれど、と俯いたままではあったが唇を小さく噛み、腹の底へ力を込めた。
 その想いをぶつけてくる相手が、レッシンが、冗談でこのようなことをしているわけではない、ということも分かっている。ここで逃げてしまうことは、その気持ちを拒否するよりも酷い行為だ。そうしてしまうほどの臆病者にまで、落ちたくない。
 落ちたくはない、のだけれど。
 恐る恐る視線を前へ向ければ、自分よりも僅かに背の低い少年の瞳に捕まり息を呑む。
 どこまでも、本気の色を湛えたその視線。
 それに正面から立ち向かうには結局のところ。
 この少年の腕の中に落ちる以外、術はないのかもしれない。




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2012.04.11
















リウは逃げ出した。
しかし周りを囲まれていて逃げられない。

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