恋人の居ない生活をしてみた。 (青エク:雪燐) 結論。 二日、持ちませんでした。 いや違うんだ、これはなんだその、調子が悪かったというか、慣れてないというか、そもそもこの寮にきてからまだ一年も経っていないわけで、そんな場所だったから、だから、ほら、うん。 「そういうことだ」 『りん、ぜんぜん、いみがわからない』 大変に頭のよろしい猫又に突っ込みを入れられ、枕に頭を埋めたまま「うるせぇ、ほっとけ」とそう返す。くぐもった声がきちんと届いたのか、クロはにゃん、と少し不服そうに鳴いたあと、今はあまり聞きたくない言葉を続けてくれた。 『でもりん、そっち、ゆきおのベッドだぞ?』 「…………」 知っているのだそんなことは。知っていて、敢えてこちらに寝転がっている。ちらり、と視線を向ける先は向かいにある自分のベッド。朝起きたそのときのままぐちゃりとなった掛け布団に、脱いだ服が重なっている。枕元には数冊の雑誌が放置されているが、横になれないほど汚いというわけではない。 答えない燐に首を傾げ、とん、と床を蹴ってクロがベッドへ飛び乗ってきた。 『かってにつかって、おこられないか?』 どうにもクロのなかで、雪男は怒るひとというイメージがついているらしい。それは怒られるようなことばかりする燐にも半分以上責任があるかもしれない。 ぽそりと小さく、「分かんね」とそう答えた。 怒るかもしれないし、むしろ呆れて馬鹿にしてくるかもしれない。大丈夫だと大見得切ったのはどこの誰だったのか、と。 たとえどれほど優秀な人物であっても、弟は燐と同じ年で未成年だ。人手不足といえど、騎士團もまだ修学中の学生に無茶な任務は振ってこない。しかし今回はどうにも手が回らず、仕方なく雪男へ要請がきたのだ。若干面倒くさい悪魔が相手であるため、最低でも三日はかかるらしい。泊まりがけの任務など燐が知る中では初めてのことで、僕にまで回ってくるなんて珍しい、と雪男でさえ言っていた。 問題を起こさずおとなしくしていること、出された課題をちゃんとすること、と口やかましく注意ごとを並べ立てて任務に出かけた弟は、最後に「寂しいからって泣かないでね」とからかうように付け加えていった。ふざけんな、誰が泣くか、さっさと行ってこい、と怒鳴って追い出したのだけれど。 泣いてない、まだ泣いてない。でも、泣きそうではある。 ひとりで(クロは一緒にいてくれるけれど)取る食事だとか、待っても戻ってこない気配だとか、朝起きて挨拶をする相手がいないことだとか。 たった二日、されど二日。 ぽふぽふと、黒い尾が不満を表すように雪男の布団を叩いていた。 一層のこと今日はこのままこちらのベッドで寝てしまおうか。 雪男に気づかれでもしたら盛大にからかわれるだろう。けれど、もう身体が動きそうもない。ここを離れたくないと言っている。 そもそも良く考えればこのベッドの持ち主は恋人というだけでなく双子の弟でもある、あるいは逆に双子の弟というだけでなく恋人でもあるのだ。恋人のいない生活はそのまま、弟の、家族のいない生活でもある。 大切な存在がふたつ一度に側から消えてしまっているのだから、覚える寂しさも二倍ということではないだろうか。 「……んなの、我慢できるわけねぇじゃん」 ブラウザバックでお戻りください。 2012.04.07
甘えっこ燐ちゃん。 リクエスト、ありがとうございました。 |