手を繋ぐためのあと一歩。


(幻水TK:ジェイマリ)


 いつから、と問われてもはっきり答えられない。
 どこを、という問いも同様。
 けれど、こいつだ、とそう思った。
 だからずっと追いかけている。


「うーん、鈍いっつーか、興味がなさそうっつーか」

 多少なりとも友人の助けになれば、と彼女の姉に話を振ってみたのだけれど、「マリカちゃんってば、そういうの全然話してくれないのっ! リウちゃん、何か聞いてない?」と逆に尋ね返されてしまった。そもそも、自分たち四人の間で今までに所謂「恋バナ」に花を咲かせたことが、一度でもあっただろうか。たとえ話をしていたとしてもディルクとシスカのことであったり、クロデキルドとアスアドのことであったり、要するに他人の色恋を傍観者として噂するに過ぎない。レッシンとリウが同性であるにも関わらず恋人となって以降もそれは変わらず、四人集まれば村にいた時と同じように下らないことばかり話している。
 だからこうして、ジェイルの想い人について言及すること自体が酷く稀な事態だった。

「あんまり偉そーなことは言えないけどさぁ、とりあえず意識してもらわないことには始まんねーと思う」

 彼女の中の認識では、自分たちは「信頼できる仲間」あるいは「手のかかる幼馴染」だろう。リウやレッシンはそれで構わないが、いつまでもそれで満足していては、どこぞの誰とも知らぬ男に「特別枠」を掻っ攫われかねない。
 そのようなことを掻い摘んで言えば、「満足はしてない」と否定の言葉が返ってきた。

「あれ? そうなの? なんかジェイル、あんまがっついてねーように見えるからさ」

 今の関係のままでも構わなそうな、そんな雰囲気に見えた。そう口にするリウへ、「レッシンと一緒にするな」と表情の乏しい幼馴染は言う。確かに。レッシンは良くも悪くも隠し事が苦手で、欲しいものは欲しいとはっきり口にするタイプだ。どちらかと言えばジェイルは真逆の性格をしており、表面的にはひどく静かで、あまり物事に執着さを見せないことが多かった。
 けれど、あのレッシンと、そしてマリカと共に育ってきているのだ、単純に感情を表に出すことがないだけであり、それなりの欲は持ち合わせているらしい。そのことになんとなくほっとしながら、「じゃあ、どうやって気づいてもらうか、だな」とリウは腕を組んで言う。リウが見た限りでは、ジェイルも含め自分たちはどうにも彼女から「恋愛対象外」と認識されているようだ。家族に近い感情を抱いてもらえている。リウにとっては喜ばしいことであるが、ジェイルはそうもいかないだろう。
 とにもかくにも、恋愛対象として見てもらうことが第一歩。そのためにどうすればいいのだろうか、とあまり得意ではない分野へ思考を働かせていれば、「とりあえず、キスしてみるか」とジェイルがいつもと変わらない声音で淡々と言う。

「…………いきなりそれはまずいだろ」

 下手をすれば関係が険悪になりかねない。口の端を引きつらせてツッコミを入れたリウへ、「冗談だ」とジェイルは返した。

 冗談って顔には見えなかったけどねー……

 もしかしたら一見分かりづらいだけで、進展の望めない現状に彼も煮詰まっているのかもしれない。
 あははは、と乾いた笑いを零し、「せめてさ、」ともっと柔らかな策を提案しておく。

「手を繋ぐとか、そこらあたりから攻めたらどーよ」




 リウとそんな会話を交わしたのが先日のこと。にへら、といつもの締まりのない笑みを浮かべて軽く言ってくれたが、そう簡単にできるような事柄だろうか。
 歩きながら自分の掌と、先を行く彼女の背を交互に見やる。手を繋ぐ、そのこと自体したことがないわけではない。しかしそれはどちらかと言えば、手を引かれる、という表現の方が正しく、どこぞのバカップルたちのように触れ合って顔を赤くするような甘い雰囲気の中では決してなかった。
 今、何の理由もなくジェイルの方から手を握れば、そういう雰囲気も目指すことができるのだろうか。
 もう一度自分の掌を見おろし、ぎゅう、と握る。
 それこそ、「やってみなければ分からない」だ。
 何らかの進展を望むのならば動かなければ始まらない、そんな決意を固め、少女の名を呼んで手を伸ばそうとしたところで。

「あ、モアナさんだ!」

 おーい、と手を振ってこちらに気づいたランブル族の元へ駆けて行く。長いその髪の揺れる様をぼんやりと眺め、行く先を失ったこの手をどうするべきだろうか、と悩んだところで背後からぽん、と両肩にそれぞれ手を置かれた。

「ドンマイ」
「頑張れ、ジェイル」

 幼馴染たちからの励ましと慰めの言葉に、うるさいこのリア充がっ、と思ってしまったのも、今日ばかりは許してもらいたい。




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2012.04.10
















「進展を」ということでしたが、ええと……あれ?

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