勝敗はいずれこの手の中。


(幻水4:シグ主)


 おっとりとマイペースな性格をしていると思われがちな軍主であるが、実は意外に負けず嫌いで頑固な面がある。そんな様子を見ることができるものは限られており、それだけこの少年に心を許されているということでもあった。
 幼い頃から庇護してくれる身寄りを持たず、使役される側として生きてきたが故のものでもあるだろう。他人には決して弱さを見せず、甘えも見せない。穏やかな強さは凪いだ海のようだ、といつも思う。一たび武器を両手に前線に立てば嵐のような激しさを垣間見ることもできるが、少年と呼べる年であるにもかかわらずあまり動じることなく、穏やかに軍を纏める彼の姿は、すべてを受け入れただそこにある海に似ている、とそう思う。
 けれど、実際のところ彼が海であるわけもなく、心を持った人間だ。長いとは言えない人生の中で両親を失い、帰る場所も分からず、呪いのような紋章まで押し付けられてしまった、他人からすればなんと不運な、と嘆きたくなるような境遇にいる少年だ。(そのようなことを言えば彼は必ず、「生きてるから不幸じゃないよ」と笑っていうのだけれど。)
 そんな彼がいつもの、のんびりとした声音で言うのだ、「命を懸けた勝負みたいなものだから」と。それは決して、今彼が身を置いている戦乱のことを指して言っているわけではない。
 喰うか喰われるか。
 彼の左手に宿る呪いとの戦いなのだ、と。

「ちょっと前までは、どうでもいいかな、って思ってたんだけど」

 この戦争が終わるまで何とか持ちこたえさえすれば、あとはどうなってもいいと思っていたのだ、と悲しいことを軍主は平気な顔をして言う。さすがにその思考は切なすぎる、と文句を言おうと思えば、「今は違うからね」と先手を打たれた。

「今は、絶対に負けて堪るか、って思ってる」

 何が何でも勝ち続けて生き残ってみせる、と。
 そう強い意志を持って言い切る少年の手に、無条件で触れることのできる位置にシグルドはいる。だからこそ、彼と同じだけの強さを以てこの手を守り通したい、とそう思った。
 宿主を喰らう紋章との命がけの真剣勝負。
 勝敗を握る少年の手は、今、シグルドの手の中にある。




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2012.05.09
















魂を賭した勝負。

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