※女体化注意。 目の前を子供達が駆けていく。 (TOV:フレユリ) ユーリ・ローウェルという男がこの世から姿を消し、どれほどの時がたっただろうか。口が悪く捻くれていて、それでも優しかった長身の男が結局どのような最後を迎えたのか、知るものはほとんどいない。親しかったものたちは一様に口を揃えて言うのだ、「忽然と姿が消えた、行方が分からない」と。それ故に事情を知らないものたちは皆、彼が既に死亡したものだと、そう判断していた。 「……まぁ、無理もねぇわな」 それを望んだのはユーリ自身。一時は噂通り姿を消し、誰にも知られぬ場所へ隠れてしまおうと思っていた。しかし結局そうしなかったのは、秘めた決意を察した男に「別にいいけど、」と言葉を紡がれたから。 「そうしたら僕は君を追いかけるよ」 努力を重ねてようやく得た力も、信用も、夢も、すべてを捨てて。 本気の色を湛えたそれに冗談ではない、とそう思った。彼の夢はユーリの夢でもある。今さらそれをすべて投げ出すなど絶対に許さない。ふざけるな、と怒鳴ったユーリへそれはこちらのセリフだ、と笑みを浮かべた男が存外に怒りを覚えていたのだ、とその時漸く気が付いた。身体に起こった変化のことを相談しなかったことを怒っているのか、あるいはフレンの前から消えてしまおうと思ったことを怒っているのか。 そう考えていれば、そんなことはどうでもいい、と切り捨てられた。では一体この男は何に腹を立てているのだろう。 ベッドに押し倒され、開いた足の間で男を受け入れながら思っていれば、「星喰みだかエアルだかマナだか知らないけど」とフレンは苛立ちの籠った声で吐き捨てた。 「ユーリを犯していいのは僕だけなのに」 ああたぶん、と身体を揺さぶられながら快楽に霞んだ頭でぼんやりと思う。 「おかす」の意味合いが、大分、違う。 正確に言うなら、病魔に「侵される」という意味での「おかす」方だ。病気というわけではないが、それに似たような状態であることは専門の研究者によって告げられている。しかも治る見込みのない病気。 人体の性別を決する細胞に何らかの異常が起こったらしい。しかし普通はたとえそんな異常が体内で発生したとしても、肉体の性別まで変化はしない。それが先天性の異常、あるいはなんらかの病原菌に侵されてのものであるならそうだったかもしれないが、ユーリの場合は原因が「普通」ではなかった。 すべての生命の源とさえ言い換えられるようなエネルギィを多量に浴びてしまった、それが故の変化。今やユーリの身体は完全に女性のものとなっている。 男の時には無かったバストと、ウエストの括れ、柔らかな肌。強いられた変化をなかなか受け入れることができなかったのも仕方がないだろう。今でも時折叫びたくなる、「俺を返せ」と。こんな女の身体など望んでいなかった、こんなものは要らない。 そう言うユーリへ「じゃあ頂戴」とのたまったのは、同性であった頃から身体を繋げていた唯一無二の半身。 「僕はどんなユーリでもユーリだったら全部欲しい」 君が要らないっていうなら僕が貰う。 伸ばされた腕に何もかもを忘れて縋り付きたくなる感情を堪え、罪悪感はねぇの、と男に尋ねた。ショックを受け傷ついているユーリにつけ込んで自分の欲を押し付けているという罪悪感はないのか、と。 それに対し「ないよ」とあっさり笑顔で答えられ、駄目だこいつは、と思ったと同時にいろいろなことがもうどうでも良くなって思わず笑ってしまった。 その時に多分、「ユーリ・ローウェル」という名の男は完全にこの世からいなくなってしまったのだ、とそう思う。 「あの時のユーリはほんと、ウザかったよね」 自分が一番不幸です、って顔しちゃってさ。 窓の外をぼんやりと眺めて昔話をしていれば、背後から抱きついてきた男がその腕の優しさとはかけ離れた辛らつな言葉を口にする。喧嘩売ってんのかてめぇは、と頭だけ振り返ってフレンを睨みあげるが、「事実だろ」と返された。 「どんなことだって、死んでしまうよりはマシなのにね」 紡がれた言葉に当事者でないから好き勝手言えるのだ、と言い返せなかったのは、フレンの手が緩やかにユーリの下腹部を撫でてくれているから。その手つきが、そして首筋に押し当てられた唇がどこまでも優しく、愛おしさに満ち溢れているのがはっきりと感じ取れるから結局何も言えぬまま、そっとフレンの手に自分の手を重ねた。 あの時「ユーリ・ローウェル」という男は死んでしまった。けれど、「ユーリ」という存在は今確かにここに居る、ここで生きている。 生きているからこそ、その先に続く道を歩むことができるのだ。 窓の向こう側で、石畳の道を駆けていく子供たちの姿を見やりながら、これから先に広がる光景に思いを馳せることもできるのだ。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.04.12
以前書いた後天にょたと違いを出したくて、玉砕しました……。 リクエスト、ありがとうございました! |