人ごみが二人を離す。


(幻水TK:主リウ)


 お忍びで、というほど顔が知られているわけではないが、それでも今やリュウジュ団といえばそれなりに名の通った団体である。そこの団長と参謀が揃って町にやってきているなど知れたら、少々面倒くさいことにはなるだろう。だからできるだけただの旅人に見えるように、そのあたりにいる子供と変わらぬ姿に見えるように気を付けながら、レッシン曰く「デート」を楽しんでいたのだけれど。

「何ではぐれるかな……」

 気が付けばいつの間にか、リウはひとり人ごみの中に取り残されていた。はぁ、と大きくため息、好奇心の塊のようであるあの男の気を引く何かがあったのか、あるいはリウの方が商店を覗くのに夢中になり過ぎていたか、はたまたその両方か。

「……まあいっか、どうせそのうち見つかるだろーし」

 遊びにきた町はさほど大きなものでもなく、商店が集まっているこの一角以外取り立てて見るべき場所もない。全く知らない場所というわけではなく、少々人が多いため探し出すのは苦労するかもしれないが、大きく移動する必要もないはずだ。
 歩いていればそのうち見つかるだろう、と判断した少年軍師は、身体を這う刺青を隠すための大きめのマントをひらひらと舞わせ、連なる店舗を覗きながらゆっくりと歩を進める。最近は外へ出るとなれば必ず誰かが一緒で、もしかしたらひとりで動き回るのはひどく久しぶりかもしれない。
 ひとといるのが嫌いなわけではない、むしろ賑やかな状態の方が好きだとは思う。けれどこういう時間も苦手ではなく、それなりに楽しめもするのだ。それをたとえ同族であったとしてもあまり慣れあわず、個人主義者の多いスクライブ的な性格だ、と思うのは穿ちすぎだろうか。
 古物を専門に扱う店先で、見たことのない形状の道具(それが何かは全く想像ができない)をしげしげと眺めていたところで、「リウッ!」と背後から名を呼ばれた。振り返ればどこか焦ったような顔をしたレッシンがそこにいる。返事の代わりに恋人の名を呼ぼうとしたところで、がばりと抱きつかれた。

「ッ、れ、レッシン!?」

 突然どうしたのだ、という疑問を纏ったその声に、「いねぇからびっくりした」と返される。肩で息をしている様子から、どうやら走り回ってくれていたらしい。その気持ちはとても嬉しいが、「いや、あのさ、レッシン」と抱きついてくる少年を引きはがして正面から目を合わせる。

「オレ、そんなガキでもねーからな?」

 だからそこまで心配して探し回ってもらわなくても大丈夫だ、と苦笑を浮かべて言うが、目の前の男は「は?」と眉を顰めた。そして言うのだ、「勿体ねぇじゃん、折角一緒にいんのに離れるとか」と。

「オレの楽しみを奪ってんじゃねぇよ、バカ」

 もうはぐれねぇように手ぇ引いてくぞ、文句言うなよ、はぐれたお前が悪い、と続けられる言葉ははっきりいって脳を素通りしてしまっている。
 ああもう、と俯いて、空いている手で額を抑えた。
 少しは心配しろと怒るべきなのか、ひたすら求めてくれる一途さを喜ぶべきなのか。

「どっちだっつーんだよ……」




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2012.03.08
















団長は常に全力でリウに向かっている感じで。