行くよ。今傍に行っちゃうよ。 (青エク:雪燐) 考え始めたら嵌るタイプだ、と自覚はしている。だからといって性格上考えないということもできなくて、本当にこれで良かったのだろうか、と煩悶していた。 先日、兄弟という一線を越えてしまった自分たち。正直なところ、互いに恋愛感情を抱いているのか未だに疑問だ。唯一縋っていた養父を亡くし、拠り所を失くした雛が二匹、身を寄せ合って傷を舐めているだけなのでは、と。それではよくない、自分はともかく兄にはもっとちゃんと、いろいろなひとと付き合い、その精神面を成長させてもらいたいと思っているのだ。 やはり勢いと雰囲気に任せてそのまま兄といたしてしまったのは良くなかった、どう考えても良くなかった。常識だとか倫理観だとか、そういった面に照らし合わせてみても、許容できる道ではないのだ。 しかし、してしまったことを今さらなかったことにするなどできず、とりあえず「恋人」という関係に収まりつつある現状をどうするべきだろうか、と悩む。やっぱりあれは間違いでした、と正直に伝え、燐が納得するだろうか。ふざけるな、と怒らせてしまうだろうか、泣かせてしまうだろうか。あっさり受け入れられたら、それはそれでショックを受けそうだなと思い、だから自分はどうしたいのだろう、何を望んでいるのだろう、と悶々と考える。 実験を繰り返し推測や仮定を事実として確認できるような事柄であればいいのに。 あるいは辞書を引けば答えがでてくるだとか、数式を解けば答えが得られるだとか、そんな事柄であればこんなにも悩まなくて済むのに。 そんなことを考えながら、(現時点では恋人でもある)兄が待つ寮へ続く道を歩んでいれば、不意にポケットの中から振動を感じた。祓魔の任務だろうか、と思えば、着信はその兄から。基本的に兄弟で電話のやりとりをすることはあまりなく、用事があればメールが主だ。何かあったのか、と問えば、『いや別に何も』と返ってきてますます首を傾げる。 「さっき『今から帰る』ってメールしたでしょ、見てないの?」 講師の仕事や任務で帰宅時間がまちまちなため、帰る前には連絡を寄越せ、と言われていた。それに合わせて食事の支度をしたいらしい。そこまでしてくれなくても、と思うが、用意をしてもらう側であるため素直に従っている。そのメールをほんの数分前にしたはずなのだが、と思えば、『見た』と返ってきた。だったら尚更、少し待てばいいことなのに。 『……だから、待てなかったんだよ』 悪ぃか、と拗ねたような声。 『雪男のこと考えながら飯作ってたら、なんか声、聞きたくなった』 我慢できなかったんだよ、とあまりにも素直に告げられたその言葉に、思わずぶは、と吹き出してしまった。 『笑うなっ!』 電話口でくつくつと笑う雪男へ、兄がそう怒鳴り声を上げる。自分でも子供っぽいことをしてると分かっているのだから、と言いながらも電話を切ろうとしない燐が面白くて、そして可愛らしくて。 「ご、ごめ、別に、兄さんを笑ってる、わけじゃ、」 ないから、と言いたいけれど、込み上げてくる笑いにそれもままならない。『ぜってぇ嘘だ、ちくしょう』と毒づく兄の声を耳に、何とか呼吸を整えて「兄さん」と呼びかける。 「さっきメールした通り、僕、今帰ってる途中なんだよね」 『お、おう?』 「今傍に行くから」 絶対に逃げないでね、とそれだけ言って電話を切った。手に提げていた荷物を抱え直し、携帯を握りしめたまま地面を蹴る。 目指すはもちろん、恋人である兄の居る場所。 考え始めたらぐるぐると嵌ってしまうタイプだと自覚している。本当に自分たちはこれで良いのかとも思う。 けれどとりあえず、今すぐ傍に行きたいという気持ちは本物で、時々は兄くらい素直になってもいいのではないだろうか。 待てなかった、とそんな可愛いことを口にする悪魔を捕まえて、二度と離さない。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.04.20
ちょっと青春っぽく。 リクエストありがとうございました! |