気分は君次第。


(DQ8:クク主)


 何をしたかはくだらなさすぎるので割愛するが、とりあえずバカが何かをしでかした、と思っていただければ良い。それが赤リスマの怒りを買い、ただ今絶賛説教中であるという状況だと認識していただきたい。
 ベッドの上に正座をさせ、懇々と常識を説いてみるが正直効果のほどはさほど見込めない。多少なりとも成果がでるのならば、ククールの説教回数も減少していいはずだが残念ながらそういった傾向はまるで見られなかった。
 それでもこのリーダを躾るのはパーティメンバに課せられた使命である(ゼシカ談)ため、最近は残念な脳味噌にも理解できるようなたとえ話を展開して叱るようにしている。

「で、花子は太郎が見てない隙に、太郎の大切にしてるヅラをかっぱらってだな、」
「花子、超サイテー! 謝れ、太郎に謝れっ!」
「だよな? そう思うよな?」
「ったりまえだ、見てみろ、光輝く太郎の頭頂部をっ! ああもう、痛々しくて見てらんない!」
「見ろっつったの、お前だろうが。ああ、いや、そうじゃなくて、だから、花子がやったことってのはただヅラを盗んだだけじゃなくて、太郎の繊細なハートにも深い傷を付けてるってことは分かるな?」
「そりゃそうだ、太郎、あんな必死に隠してたのに! 次郎と三郎のいたずらにもめげすに頑張ってたのに!」
「……次郎と三郎の話はとりあえず忘れろ」

 そりゃ前回の説教のときのたとえ話だ、と言いながら、「つまり、」と咳払いして居住まいを正す。

「お前がやったことっつーのは、ちょっと間違えれば花子みたいなことになってたわけ。そうするとどうよ、繊細なククールさんのハートもずたぼろになってたかもしれないってのは分かるな?」
「あー……」

 小さく呻いたエイトは、ようやくククールがなにを言わんとしているのかなんとなくおぼろげにかろうじて、理解しつつあるようなないような。
 きゅ、と唇を噛み、眉間に皺を寄せくしゃりと顔を歪めて少年は言う。

「……ごめんなさい」

 謝罪とともに見てはいけないものを見たかのように視線を逸らされぶちん、とククールの中の何かが切れた。

「オレの頭を見て謝んなぁあっ! オレは太郎じゃねぇしっ、謝られたいのはそこじゃねぇっ!!!」

 胸ぐらをつかんでゆさゆさと揺さぶるが、エイトは申し訳なさそうに視線を逸らしたまま「ほんと、マジ、ごめん」と繰り返す。

「だからっ! オレと太郎を一緒にすんなっつーのっ!」

 お前は何に対して謝ってんだ、と怒鳴って少年の頭へ拳を振り下ろした。ごっ、と鈍い音を立てたそこを押さえ込んでエイトがベッドへ沈む。ひらひらと左手を振って痛みを飛ばしながらふう、と一息。結局殴って終わるなら始めからそうすればいいのに、とはまず問答無用で手を出すお嬢様の言葉。さすがにそれは横暴すぎるだろう、とできるだけ言い聞かせるようにしているが、もう彼女に倣ってしまった方が手っとり早いのかもしれない、と思わなくもない。

 本当に面倒くさい、どうして自分がこんなことを、と思いはするものの、今更伸ばした手を引くことはできず、そもそもそこにこの少年がいないとそれはそれで居心地が悪い。
 一体何をどう間違えてこのような状態に陥ってしまっているのか。ククールの気分はこのはた迷惑な少年リーダの言動次第で浮上したり、落ち込んだりとひどく忙しない。けれど、最上まで押し上げるのも、最下層まで落とすのもどちらもエイトにしかできないことなのだろう。
 そして、一番苛々させてくるのもこの少年に間違いない。
 「だっこー」と仰向けに寝ころんだまま伸ばされた腕にいらっとし、その少年の頭に本日三発目(一発目は朝起きてすぐにお見舞いしてあった)の拳を振り下ろしておいた。




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2012.05.15
















ヅラというたとえ話にしたのが間違いだった。

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