恋人だと言うなら叶えて。


(幻水TK:主リウ)


 恋人だと言うのなら。
 たまにはオレのお願い聞いてくれてもいいんじゃねーかなー、って思うんですけど、どーでしょうね、レッシンくん。
 ぺしぺしとひとの首筋に顔を埋めている恋人の頭を叩きながら言ってみるが、離れる気配は欠片もない。はぁ、とため息をつき、もう一度名前を呼ぼうと口を開いたところで。

「ッ!」

 首筋に生暖かな感触を覚えたかと思えば、すぐにちり、とした痛みに変わった。このバカは本当に、と眉を顰めてのし掛かってくる少年の両肩を押し返す。

「だ、からっ!」
 痕をつけんな、っつってるだろーがっ!

 もう何度このやりとりを繰り返しただろうか。身体を重ねる前には必ず言葉の応酬をしているような気がする。とにかく痕を残されることを嫌がるリウと、残したがるレッシン。ふたりの主張はすれ違うばかりで、なかなかうまく収まる位置を見つけられないままでいた。
 今日もまたリウの制止などには耳を傾ける素振りもみせず、ぢゅう、とひとの肌に吸い付いている。こういう性格なのだ、と分かってはいるし、高々この程度で愛想を尽かすほど軽い気持ちなわけでもない。だけれど、恋人として、これからも共に歩むというのなら、それなりに言っておかなければならないこともある。
 そのままでいーから少し聞いて、と肩口や鎖骨、喉や顎の下にまで舌を這わせ始めたレッシンの背を緩く叩きながらリウは口を開いた。

「別にな? オレは、痕つけられんのがイヤ、っつってるわけじゃねーんだよ」

 種族の違いか、この肌は人間のものより青白く、赤い鬱血のあとはよく目立つ。またリウ自身の体質もあるのだろう、一度付いた痕はなかなか消えないのだ。見るたびに行為のことを思いだして恥ずかしくはあるが、この少年が自分に執着してくれていることを思えば幸せさえ覚える。
 普段は恥ずかしくてあまり直接的な言葉を口にしないため、信じてもらえるかどうかは分からない。けれど決して嫌ではないのだ、と加えられる愛撫に乱れそうになる息を押さえ込んでできるだけ静かな声で告げた。

「こーゆーことって、好きなもの同士でやってる分には全然問題はねーけど、だからって四六時中してていいもんでもないだろ?」

 体力が持たないだとかそういう能力的な問題ではなく、もっと常識を持ち出した社会的な側面で、度が過ぎたそれは決して褒められたものではないだろう。
 ふしだらだ、だらしがないと眉を顰めるものが大半、リウだって誰かの度が過ぎたそういう話を聞けばきっと、ちゃんとしろよ、と思う。

「…………やらなきゃいけねぇことはやってる」

 どうやら今回はきちんとリウの話を聞いてくれているらしい。少し拗ねたような声で返ってきた言葉に、「そうだけど」と苦笑を浮かべてその背を撫でた。

「それだけでいい、って訳にはいかねーんだよ、社会ってやつは」

 たとえしっかりとこなすべき作業に精を出していたとしても、身体にそんな痕を残したままだと誰かに知られでもすれば、懸命に仕事をしてきたことさえ無駄になりかねない。それはたとえば、身だしなみに気をつけるだとか言葉遣いに気を付けるだとか、そういった事柄と同じだと思うのだ。
 だらしのない格好をしたものに、誰が信頼をおくだろうか。乱暴な言動のものに誰が信用をおくだろうか。

「そーゆーのを分かった上で、それでも痕つける、ってんなら、いいよ、別に。オレはそういうお前を好きになったんだし、それくらいで支障がでるほどオレも無能じゃねーし」

 でもそうと知っているからこそ、リウはむやみにレッシンの身体に痕をつけたいとは思わない。ひとと会う予定のある前日はもちろん、そうでなくとも服で隠れない位置、うっかり人前で晒してしまいそうな箇所には痕は付けられない。

「オレが痕つけんなって言ってるのと、レッシンにあんま痕つけないの、そういう理由ってことだけは知っといてな」

 はい、あとは自分で考えて、とその頭を抱き込んで頬を擦り寄せれば、「……ズルすぎんだろ、お前」と小さな声が耳元に落とされた。
 緒突猛進な男の恋人をやっているのだ、多少ズルくならなくてはやっていられない。




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2012.05.14
















団長の扱い方を少しずつ学んでいる模様。

リクエストありがとうございました!