目の下の隈は肌色を越えた。 (九龍:皆主) 「うはぁ、すげぇ顔……」 車の窓ガラスに写り込む自分の顔を見て、葉佩は思わずそう呟いていた。月の明るい夜、反射して写りこんでいるだけで、鏡のようにはっきりと見えるわけではない。それでも、自分がひどく疲れた顔をしていることだけははっきりと見て取れた。 何せもう三日ほど、まともに眠っていない。 つい先ほど探索を終えたばかりの遺跡からはもう四、五キロ離れてしまっただろうか。謎の多い遺跡というわけではなかった。ただ多少厄介な罠が仕掛けてあり、共に潜った同僚たちと交代で休憩をとりながら作業し続けなければ外に出ることができなかったのだ。 潜ったメンバの中で一番若かったということもあり、起きて動き続けた時間は葉佩がもっとも長かっただろう。そのことについて文句を言うつもりはないし、無駄に捻って頭を使うトラップが仕掛けてあるものよりこちらの方がまだだいぶ楽だろうとも思う。けれど、疲労は覚える。ゆっくり眠りたいと思う。 「ぶっさいく」 呟いて笑いを零す。こんなんじゃ甲ちゃんに嫌われちゃうよ、と。 会えない親友、悪友、恋人の名前を紡いでため息を一つ。同じ空が広がっているとはいえ、見上げたところで彼との間の距離が縮まるわけでもない。ぼんやりと外を眺めていた視線を外し、「ねぇ」とハンドルを握る運転席の同僚へ声を掛けた。 「ホテル戻る前に空港、寄ってくんないかな」 どうして、と理由を問われ、「日本に帰るから」と素直に答える。 「おい待て、クロウ。今行ったところですぐに飛べるわけじゃねぇだろ。大体お前、装備どうすんだ、一般航空便じゃ止められんぞ」 彼の言葉はひどく尤もなところを突いてきているが、うんでも、と葉佩はにへらと疲れた顔を緩めてみせた。 「会いたくなっちゃったんだもん」 呟いた名前の響きですら愛しくて、今すぐにその存在に触れたいと思ってしまった。会って、抱きついて、好きだよと伝えたい。ちょっとひとには見せられないような酷い顔をしている自覚はあるけれど、そしてそれを確実に指摘されるだろうことは分かっているけれど、この隈を取るのならあの無気力無愛想な男の腕の中が良い、とそう思った。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.04.26
未来ねつ造。 リクエストありがとうございました! |