恋人誘拐事件の真相。


(DQ8:クク主)


 だいじけんのはっせいです、と真剣な面もちでそう告げたのは、いつも肩に下げている鞄の中身を整理整頓していた少年リーダだった。昼を少しすぎたあたりに次の町にたどり着いてしまい、無理をして進むより早めに宿を取って身体を休めようと満場一致で決定したのが一時ほど前のこと。買い出しを済ませてそれぞれの部屋へ戻るとき、しっかり者のお嬢様がリーダへ「エイト、たまには鞄の中を片づけなさいね」とそう言ったのだ。
 その言葉通りに、ククールと共に使う部屋へ入ったと同時に床の上に鞄の中身をぶちまけた。整理をするのならもっとほかに方法があるだろう、と思うけれど口には出さない。単純に面倒くさかったからだ。
 詰め込まれていたがらくたを放置して、窓の外へ向かってぱたぱたと空の鞄を振る。

「ぶっは」
「風向き考えろよアホ」

 舞い上がった埃を顔面に浴びてしまったようで、けほけほとせき込むエイトへは思わずつっこみを入れてしまった。そのセリフを聞いているのかいないのか、窓枠に空っぽの鞄を置いて身体を返し、今度は床の上の中身を片付け始める。ククールからすれば半分以上がただのゴミにしか見えなかったが、彼の目玉には何か特殊なフィルターでもかかっているらしい。
 どこかへ出かける気にもなれなかったためベッドに腰を下ろし、「いるものー。いらないものー。だいじなものー」というエイトの声を聞きながら読みかけの本へ目を落としていたところだったのだが。
 ずずい、と膝を揃えて近づいてくる少年に視線を軽く向け、「聞いてやらんこともない」と話の続きを促せば、「行方不明なのです」と返ってきた。

「何が」
「パパスさんの恋人のママスさんが」
「…………」

 パパスの恋人ならマーサだろう、と思ったが通じるか不明であった為飲み込んでおいて、「頼む、オレに分かる言葉でしゃべってくれ」と口にする。ククールの前にちょこんと正座した少年の膝の上には、手に被せて操る所謂手人形が一つ。詳しく話を聞いてようやくそれが「パパス」という名前であると理解した。要するに、二つ持っていたはずの人形が一つなくなっていると言いたいのだ、このリーダは。

「どっかに忘れてきたんじゃねぇの?」
「今朝カバンのなかでパパスさんと仲良く重なってたの、見たもん」

 ただ押し込められていただけなのだろうが、言い方はもう少しなんとかならないだろうか。そう思いながら「じゃあ、家出。旦那に愛想尽かしたんだろ」と言えば「それはない!」とかなりの剣幕で否定されてしまった。

「パパスさんとママスさんは、それはもう、今世紀最大のおしどり夫婦として有名なんだぞ!? ママスさんが自分の意志で出ていくとか、考えられない!」
「……そりゃまあ、人形だからな。勝手に出歩きはしねぇわな」

 始めから分かっていたことではあるが、相手をするのも馬鹿らしい。ため息をついてこのバカの気をどうやって逸らせようか考えていたところで、エイトは「はっ!」と目を見開いて頭を上げた。

「もしかして誘拐!? ママスさんの美しさに目が眩んだやつが、攫っていっちゃったとか!?」
 どうしよう、ケーサツに連絡!? 身代金の要求とかあったりして! ひとりで来い、警察には知らせるな、的な! ママスの声を聞かせてくれ! ちっ、仕方ねぇな、ほらよ、あなたぁあっ!!! ママスッ!

 一頻りひとりで騒いだ後、よよよ、と泣き崩れる。楽しそうで何よりだ。世界観がどうのだとか、今さら少年に対して注意を促す気にもなれず、今日もいい天気だなぁ、とエイトが開け放したままの窓へと視線を向けた。

「…………なぁ、エイト。こう言っちゃなんだけどさ、誘拐されたんだったらとりあえず犯人からの要求がなきゃどうしようもできねぇだろ」
「でもだって!」
「あとはやみくもに探すっつー手もあるけどな。それより先に、エイトくんにはやらなきゃならないことがあります」
「……やらなきゃならないこと?」
「そ。とりあえずパパスさんを慰めてやるのが先じゃね?」
「パパスさん……」
「ほら、最愛の恋人が誘拐されたんだろ? お前よりもパパスさんの方がもっと辛い」
「ッ!」

 もともと大きな目を更に見開いて、エイトはがばり、と小さな人形を抱きしめた。

「ごめんなっ、パパスさんっ! 大丈夫、俺がついてる!」
「そうそう。で、傷心のエイトくんは優しいククールさんが慰めてやるからさ」

 はやくママスさんが戻ってくればいいな、と口にするククールの視線の先、柔らかな太陽の日差しが降り注ぐ表通りを、小さな人形らしきものを咥えた犬が一匹、悠々と通り過ぎていった。




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2012.05.05
















「恋人」という言葉の意味を辞書で百回くらい調べてきましょう。

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