恋人の肌荒れは何故か切ない。


(TOV:フレユリ)


 性別の垣根を越えた関係、と称してでさえどこか違和感を覚える存在、それがフレンにとってのユーリという人物であり、ユーリにとってのフレンという人物だった。男だとか女だとかを気にしたことがなければ、もしかしたら人類であるということさえろくに意識していないかもしれない。そこにあるものが「ユーリ・ローウェル」あるいは「フレン・シーフォ」であればそれだけでいい、それ以外には必要のない、そんな存在である。
 だから、決して容姿に拘っているのだとか、女性であったらと思っているわけではなく、思われているわけでもない。それを知っているからこそ、フレンの好きなようにさせている部分も多々あった。
 お前さ、と自分の右手の爪を鼻歌でも零しそうな様子で磨いている男へ、ユーリが呆れたように口を開く。

「ご趣味は? って聞かれたとき、間違っても『ユーリ』って答えるなよ?」

 こうして暇を見つけては他人の身体へケアを施そうとする(それは爪だけにとどまらず、肌や髪への手入れもするのだ、この男は)など、もはや趣味の域に近いと思う。からかいが半分と、本当にそう答えそうで怖かったため残り半分は牽制の意味を込めた言葉に少しだけ考えて、ははっ、とフレンは笑った。

「あながち間違ってもないね、それ」

 柔らかな布で爪を拭ったあと、次に男が手にとったものは見たことのない小瓶だった。蓋を開ければ中に白いクリームが入っているのが分かる。それは何だ、と聞く気ももはやない。掬い取ったクリームを指先から手のひら、手の甲、手首と塗り込めていくところをみれば、肌に対して何か効果のあるものなのだろう。
 男の肌がつるつるしていても空しいだけだろうに、という本音に対して、がさがさしてても切ないよ、という本音が返ってきた。だからもう何も言わない。ユーリに対しあれをしろ、これをしろ、と指示をするのでなければ、フレンの好きにすればいいと思う。どうせこの身体はフレンのものと言っても過言ではない。
 けれど。
 そういえばね、と右腕のケアに満足したのか、今度は恭しく左腕を取りながらフレンは言う。

「このクリームを買うところを城の人間に見られていたみたいでね。僕に恋人がいるらしい、って噂が流れてたんだよ、一時」

 それもそうだろう、中身もさることながら、その小瓶はどう見ても女性向けのもので、男がわざわざ買い求めるなどプレゼント用としか考えられない。へぇ、と相づちをうてば、「それが、殿下のお耳にも入ってしまったみたいで」とフレンは言葉を続けた。

「いいひとでもできたんですか、って聞かれたんだ」
 正直に、ユーリに使うものです、って答えたら笑われてしまったんだけど、どうしてだろうね。

 きょとんと、本当に理由が分かっていないような顔をして言うフレンを見やり、はぁとため息を一つ。この男の行動を止めるのは不可能であるため放っておくしかないが、当分はヨーデルに会わないようにしよう、とそう決めた。




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2012.03.23
















「趣味は『ユーリ・ローウェル』です」(キリッ

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