健気な恋人と幸せ者の相棒。


(TOV:レイカロ)


 大事すぎて手が出せない、なんて都市伝説だと思っていた。今までそんな話を知り合いから聞くたびに、「男ならがっとヤっちゃえ、がっと!」だとか言って無責任に発破をかけていたけれど、まさか自分がその立場に追いやられる羽目になるとは思ってもいなかった。
 そもそも、この恋人(と認めるには少々問題がある気もするけれど、おもに年齢的に)の知識がどこまで及んでいるのかが未だに掴めていない。どこまでを望んで期待しているのか、まだ図りかねている。
 あまり一緒に過ごす時間を取れていないため、可能なときはできるだけ側にいたいという、我儘にもならない少年の願いも、遠慮がちな彼の口を無理やり割らせて吐き出させたものだ。邪魔にはなりたくないんだ、迷惑に思われたくないんだ、そんな健気な言葉を本気で心の底から口にする少年だからこそ、悪くずるい大人の心を押しとどめて、真正面から向かい合いたいと思う。
 そしてその結果最初に戻るのだ、大事すぎて手が出せない、と。
 同じ布団に向かい合って潜り込み、少年の話を聞きながら眠りにつく間、結局できることといえばキス止まり。

「ボク、レイヴンにだったら、何されてもいいよ」

 そんなセリフもどこまでを想定し、どこまでを受け入れるつもりで言っているのか、皆目見当もつかない。ガキってのはこっちが思ってる以上に大人だぜ、とどうにも矛盾しているようなことを言っていたのは黒髪黒衣の青年だったか。ヘタレだのなんだの、好き勝手罵ってくれたが、この点に関してはおそらくユーリの方に軍配が上がるのだろう。

「そんなこと言ってくれる健気な恋人がいるひとは幸せ者だねぇ」

 少年はまだ子供だ。精神的に未熟で移ろいやすい十代の子供が病的に恋に落ちると知っている弱い大人は、いつでも終わりを想定して動いてしまう。いつかきっと自分ではない誰かへその健気さを発揮するようになるのだろう、そんなことを思いながら口にした言葉へ、こちらを見やりながらえへへ、とカロルは笑う。

「だったらレイヴンは一生幸せ者だね」

 子供の無邪気さは時としてひどく残酷だ。言い切られた言葉と表情に、ないはずの心臓をずくんと撃ち抜かれた気分にさせられる。ついでに言えば、あまりにも欲望に正直な下半身のある部分も一緒に撃ち抜かれた気分だ。
 小さく息を呑んで吐き出して、「そね、幸せね」と少しだけ乾いた声で返しておいた。
 できれば、暴れ出しそうな下半身の相棒もまた幸せになれる道を探したいものだけれど、そのために踏み出す一歩を戸惑い続けているのだから、結局はヘタレと罵られても仕方がないのかもしれない。




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2012.03.13
















やーい、へたれー。

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