律儀な恋人に何度目かの戸惑い。 (TOV:レイカロ) 「はい、少年にお土産」 どうぞ、と手渡されたそれは、少し前に食べてみたいと口にした果物だった。いいの、と尋ねれば、もらってくれないと困る、と返される。 「……でも、なんか、こないだもお土産もらったよ?」 先日は手袋だった。その前は帽子で、その前はお菓子で、その前は。 あちこち出歩くことの多い恋人は、何かを見つけてはお土産といってプレゼントしてくれる。しかも、それらは大抵カロルが「美味しそう」だとか「かっこいいね」だとか呟いたものばかり。大ざっぱでずぼらそうな恋人は、意外にも律儀にカロルの言葉を記憶しては用意してくれるのだが、こうも頻繁であるとさすがに若干の戸惑いを覚えてしまう。もらってばかりでいていいのだろうか、と。 返したくとも、カロルはレイヴンほど外を出歩くわけではなく、また金銭的にも余裕はない。ありがとう、と言葉を返すことしかできず、申し訳なく思ってしまうのだけれど。 「……迷惑?」 しょぼん、とした表情で首を傾げる男を見上げ、慌てて「そんなことないよ!」と言葉を口にする。心の底から欲しいと思っていたわけではないが、いいなと思ったものであることに違いはなく、そうでなくても恋人からのプレゼントが嬉しくないはずがない。 「ただ、ちょっと、びっくりはしてる、かな」 もらった果物(粒が大きく甘いと評判のきれいなイチゴだ)を水洗いし、一緒に食べよう、と用意をしながら少年は答えた。 一回り以上年の離れた大人の、しかも同性を好きになってしまい、どうしていいか分からずひとまず気持ちを伝え続けたら、何の奇跡か今こうして恋人として収まっている。そうなる前にも仲間として時間を共に過ごしており、彼がどんな性格であるのかなんとなく把握はしているつもりだった。 「もっとこう、てきとーっていうか、」 少なくとも、何気ない一言を記憶し、それを叶えるという律義さはない人物だと思っていた。こんなことを言えば怒るだろうか、と恐る恐る顔を伺えば、伸びてきた腕にぐりぐりと頭を撫でられる。そして恋人は「覚えておきなさい、少年」と笑いながら口を開いた。 「恋ってのはね、ひとを変えちゃうものなのよ」 正直な感想を述べるならば、少し恥ずかしいセリフだと思う。けれど、一見ずぼらで律義さの欠片もなさそうな男を変えたのが自分らしいということは、とても気分のいいこと、かもしれない。 ブラウザバックでお戻りください。 2012.03.24
このおっさん恥ずかしい。 リクエスト、ありがとうございました! |